
ロゴ制作・ロゴデザインを依頼するならsynchlogo(シンクロゴ)
COLUMN
おしゃれなロゴは、都会的で、飲食やファッションなど、限られた業界のブランドでのみ使われいるイメージではないでしょうか。しかし、それは一昔前の話で、現在は場所・業界を問わず、ありとあらゆる商品・サービス、あるいは組織そのものの「ブランド化」が必要とされており、そのブランド化に貢献するおしゃれなロゴのデザインを、競い合うように日々追求されています。
ブランドロゴは、ブランドにスタイリッシュなイメージを与え、ブランドそのものの価値を向上させるものです。ブランドロゴを展開すると、「洗練された商品やサービスを提供してくれそうだ」という期待を消費者やユーザーに与え、購買行動の活性化や集客といった具体的な「利益」へと結びついていくので、どの企業も常に力を入れてデザインを検討しています。
ブランドを世の中に広めるブランディング活動において、ロゴはシンボルとして扱われる、重要なデザインツールでもあります。広告や商品パッケージ、WebやSNSなど、あらゆるところにロゴは使われ、ブランドの目印として、真っ先に消費者・ユーザーの目へと入るように用いられてます。
しかし、もしそのロゴが野暮ったいデザインだったらどうでしょう。いかに商品やサービスの内容が良くても、それを台無しにしてしまうおそれすらあります。ロゴはブランドの「顔」として、常に「おしゃれ」なイメージを消費者やユーザーに与え続けるという使命があることから、いつの時代も力を入れてデザインしているのです。
このコラムは、ブランドにとって重要な、「おしゃれなロゴ」の作り方・使い方を、ロゴデザインを専門とする筆者の視点から考察したものです。
おしゃれなロゴを自分で作りたい人も、誰かに作ってもらいたい人にも、きっと役立つ内容になっていると思います。
そもそも「おしゃれなロゴ」とは何か、まずは「おしゃれ」の定義から考えていきましょう。
「おしゃれ」という見た目に関する評価を多用してきた代表的なジャンルはやはりファッションでしょう。ファッションもロゴと同様、色、形、テイストなど、さまざまな要素が組み合わさって「おしゃれ」と評価されます。また、時代やTPO(時・場所・場合)との関係のさせ方、その他総合的な美的判断など、デザインにおいてロゴと共通する点も多く見られます。
ファッションにおける「おしゃれ」は、大きく2つに分けることができるのが特徴です。それは、「主観的なおしゃれ」と「客観的なおしゃれ」です。
「主観的なおしゃれ」は個人のセンスや好みで選んだスタイルや着こなしのことで、いわゆる「万人受け」は意識しない感覚です。一方、「客観的なおしゃれ」は、ある時期に多くの人が用いているスタイルやアイテムを上手く活用し、「流行」に敏感な感覚のことだといえるでしょう。
「おしゃれ」の先輩であるファッションの世界には、その2つの「おしゃれ」感覚がありますが、ではロゴデザインではどうでしょう。まずはその視点から、ロゴにおける「おしゃれ」の定義を探っていきたいと思います。
ロゴデザインにおける「主観的なおしゃれ」とは、ブランドや経営者、そしてデザイナー自身の感性やこだわりを色濃く反映したスタイルを指します。たとえば、「この色が好き」「この形が自社のイメージに合っている気がする」「こういうテイストのデザインに憧れている」といった考えや思いをそのままヴィジュアルに反映されるのがこのタイプのロゴです。
ロゴは単なる装飾ではなく、「自社らしさ」や「他者との違い」を象徴するための象徴的存在です。そのため、主観的な判断やこだわりを通じてしか表現できないニュアンスや温度感は、むしろ必要不可欠な要素ともいえるでしょう。特に創業者や代表者の想いをダイレクトに伝えたいスタートアップや、個人ブランドの場合、その「主観的な美意識」がロゴの魅力を決定づけることも少なくありません。
一方で、主観的なおしゃれには「分かる人にしか分からない」という側面があり、見る人によっては伝わりにくい、あるいは理解されにくいデザインになるリスクも孕んでいます。自己満足になってしまえば、ブランディングの本来の目的である「他者に伝える」「他者に好まれる」ことから遠ざかってしまうのです。
つまり、主観的なおしゃれは、ロゴに「個性」や「魂」を宿らせる源泉ですが、それだけでは一方通行なデザインになりかねない。主観的であることは出発点でありつつ、それがどう伝わるかという次の段階へ進むための橋渡しが必要なのです。
ロゴは見る人によって評価されるものであり、その評価が企業やブランドの印象に直結します。どれだけ個性があっても、第三者が「なんだか古くさい」「センスが悪い」と感じてしまえば、ロゴの持つ本来の機能——信頼感の醸成や好感度の向上——は発揮されません。だからこそ、ロゴデザインにはある程度「万人受け」を意識した「客観的なおしゃれ」も不可欠なのです。
客観的なおしゃれとは、「できるだけ多くの人が美しいと感じる基準」に基づいたデザインのことです。たとえば、適切な余白や文字のバランス、見やすさ、色の調和、トレンドの取り入れ方などがそれに該当します。また、競合との差別化や業界ごとの印象操作といったマーケティング視点も含まれるでしょう。
特に企業ロゴにおいては、「この会社は信頼できそう」「プロフェッショナルな印象がある」「先進的なサービスを提供していそう」といったポジティブな第一印象を持たせることが重要です。これは、デザインの「主観的魅力」だけではなかなか実現できず、「多くの人が直感的に理解できる洗練」を伴って初めて可能になります。
つまり、客観的なおしゃれとは「他者の目線に立った美意識」であり、ロゴが社会や市場の中で正しく機能するための土台となります。たとえば、コラム冒頭に事例として示したスターバックスコーヒーややNKEのロゴが世界中で高く評価されているのは、それらが時代性や視認性、ブランドとの整合性を高水準で備えているからに他なりません。
客観性は、自己表現だけに留まらない「伝えるためのデザイン」に不可欠な観点なのです。
ここまで見てきたように、ロゴデザインには「主観的なおしゃれ」と「客観的なおしゃれ」という相反するようでいて、実はどちらも欠かすことのできない2つの視点が存在します。そして、この2つを両立させた先にこそ、ブランドとして理想的な「おしゃれなロゴ」が存在します。
一見すると、「主観的」でありながら「万人受けする」というのは矛盾しています。しかし、これはロゴデザインにおいて非常に重要なポイントです。つまり、デザイナーやブランド側の「主観的な美意識」を保ちつつ、それを「多くの人に伝わるかたち」へと翻訳するという高度な作業が求められるのです。
たとえば、あるブランドが「和の美しさ」を表現したいと考えていても、それをあまりにも個人的な「和」の好み——たとえば伝統や様式にもとづいたデザイン——に偏らせてしまえば、それらに精通していない一般の人には伝わりづらくなってしまいます。逆に、過度に客観性ばかりを意識し、ありきたりな「現代的な和のデザイン」に寄りすぎると、今度は「無難で没個性的なロゴ」になってしまいかねません。
だからこそ大切なのは、主観をベースにしながらも客観性のフィルターを通すことです。感性に根ざした発想を軸としつつも、それがどう見えるか、どう伝わるか、という他者の視点に目を向ける。つまり、「万人に好まれる主観性」という、一見矛盾するようでいて、本質的には両立可能な状態を目指す必要があるのです。そして、これは「おしゃれなロゴ」に限らず、全てのロゴデザインにおける中核的なテーマであり、それが実現できたとき、はじめてロゴはブランドの顔としての役割を真に果たすことができるようになるのです。
では、1章の結論として導き出された「万人に好まれる主観性」が完成されているロゴ、とはどんなものなのでしょうか。
ここではそれに該当するであろう、有名な企業やサービスのロゴ事例を、いくつかのデザインの方向性事に挙げてみることにしたいと思います。
◆シンプルなデザイン
必要ない装飾などを排除し、伝えたいことをストレートに表現したデザインで、その潔さがおしゃれな雰囲気を醸し出しています。シンプルであるがゆえにごまかしが利かず、デザイナーの力量が最も試されるデザインだと言えるでしょう。
◆スマート・クールなデザイン
シャープな線や形、幾何学をベースにしたスマートでクールなデザインは、プロポーションなど形のバランスが重要となるデザインです。、会社や企業のロゴで最も用いられるデザインですので、社会的な信頼感や誠実さ、知的が伴うおしゃれさが求められます。
◆ポップ・かわいいデザイン
ポップなデザインやかわいいデザインは、若者・子ども向けの商品やサービス、またそれらを提供する会社やお店でよく用いられるデザインです。その時代の流行や話題になりそうな雰囲気であることが求められるため、ニーズしっかり調べた上でデザインすることが大切になります。
◆先進的・未来的なデザイン
各ジャンルにおいて、最先端のものを対象とする時に求められることが多いデザインです。社会におけるトレンドや最新の内容を踏まえた上で、適切な形でデザインに落とし込むことが重要になります。
◆トラディショナル・昔風のデザイン
過去に流行ったものや昔からあるものが「おしゃれ」とされることがあり、懐かしさや伝統をテーマとする時に必要とされるデザインです。あえて渋さや古めかしさが感じられるように、あえて既視感のあるデザインや、昔用いられたモチーフを取り入れるなどの工夫が必要になってきます。
◆ナチュラル・手作り感のあるデザイン
手作りやハンドメイド、自然志向のものを扱うなど、主に衣食住に関わる会社やお店、サービスなどで求められることがあるデザインです。自然界や環境を感じさせるモチーフや形を用いたり、あるいは手描きのようなテイストで作ったりするなど、やわらかさやストレスを感じさせないデザインとすることで「おしゃれ」が実現できます。
◆格式・気品のあるデザイン
ファッションにおけるハイブランドや高級レストラン、高級ホテルなど、非日常を演出する商品やお店、サービスで求められるデザインです。落ち着きある整った雰囲気から華やかで雅な雰囲気まで、幅広いデザインの方向性の中から適切な「おしゃれ」を選択しなければならないため、特にデザイナーのセンスが問われることになるでしょう。
◆個性的・ユニークなデザイン
あまり見たことがない、他にはなさそうな個性的なデザインや、ユニークなアイデアのデザインが「おしゃれ」とされることがあります。程度を間違えると妙なものになってしまうおそれもあるので、適切な塩梅でデザインに変わったことを取り入れるようにするとよいでしょう。
「おしゃれ」と感じるデザインは様々であることを紹介いたしましたが、共通する点を挙げますと、どのデザインも洗練されていなければ決しておしゃれには見えない、ということです。ここで言う「洗練されている」とは、目指した方向性の通りにデザインが仕上がっており、多くの人がそれに異を唱えない状態です。
どんなにシンプルに作っても、どんなにかわいらしく作っても、本当にシンプルでかわいらしく出来ていなければ、それは決しておしゃれには見えないでしょう。詰まるところ、おしゃれなデザインとは洗練されていることが最低条件であると言えるのではないでしょうか。
おしゃれなロゴは、洗練されたデザインであることが最低条件なのは誰もが納得いくところでしょう。しかし、デザインを洗練させただけで、おしゃれなロゴが作れる訳ではもちろんありません。それだと、デザイナーがデザインしたロゴは、全ておしゃれだということになってしまうでしょう。
このコラムで考察したいのは、そういったありふれた「おしゃれ」ではなく、洗練されたデザインのロゴの中でもさらに限定された、真の意味での「おしゃれなロゴ」とは何かについてです。1章の結論として導き出した「万人に好まれる主観性」が、「どんなアイデアによって生み出されている」かが知りたいと思っています。
この章では、その「おしゃれなロゴ」の源泉に近づけるよう、さらに考察を深めていきたいと思います。
どうデザインすれば「おしゃれなロゴ」が作れるのかを、日本における各時代の著名な事例をピックアップして探ろうと考え、ロゴデザインに関係する資料・文献を片っ端からあたってみました。しかし、客観的に「おしゃれ」だと評価し集められたロゴ選集のようなものは見当たりませんでした。おそらく、これまでにロゴを「おしゃれ」という観点で考察した前例がないのだと思われます。
そこで、世の中で「おしゃれ」だと評価されるロゴは、規模の大小にかかわらず、「ブランドとして成功し、なおかつ商業デザインとして客観的に評価されたロゴ」であると仮定し、その観点で再度資料・文献を探し直してみることにしました。
その結果、日本タイポグラフィ協会が編集した、「日本のロゴ・マーク50年」という書籍が見つかりました。同書は、1969年から2019年の間に日本で発表された、様々なロゴ約1000点が収録された書籍です。そのロゴは、全て編集を担当した日本タイポグラフィ協会によって「名作」として厳選されたものなので、いずれも洗練されたデザインであること、デザインとして客観的に評価されていることは間違いないでしょう。
その約1000点のロゴの中から、ブランドとして成功し、当時多くの人に知られた商業ロゴを、「おしゃれなロゴ」だと仮定してピックアップしました。そして、このピックアップした数々のロゴを分析し、それらが何故「おしゃれ」と感じるのかを考察したところ、時代によらない、ある普遍的なデザインの共通点を見つけることができたのです。
以下その共通点について、同書に掲載されているロゴを事例として挙げながら、ひとつずつ説明していきたいと思います。
◆特定のターゲット層が特に理解できる美的感覚に刺さるデザイン
性別や世代、特定の興味・関心、社会的ステータスなど、何らかのジャンル・カテゴリーが特に理解できる美的感覚のことを「おしゃれ」と表現することがあります。例えば、ファッションだと、ガーリーなファッションを好む人にとって、アメカジの服を好んで着る人の「おしゃれ」な感覚はなかなか理解できないでしょう。狭いターゲット層が好みそうな意匠・テイストのデザインは、そのターゲット層に「自分たちにしか分からない良さ」という共通の美的感覚を無意識に形成し、その感覚のことを「おしゃれ」だと呼ぶようになっていくのです。
ロゴもそれと同様に、ブランドが設定した特定のターゲット層へ向けてデザインしていることが多々あります。上に挙げた6つの事例ですと、
・non-no:大学生や新社会人の女性
・としまえん:小さな子供を持つファミリー
・uno:10代から20代の男性
・飛騨高山美術館:アートに敏感な感性を持つ人
・ノビアノビオ:結婚前のカップル
・HoiClue:育児を行う親世代
といったターゲット設定が行われていますが、いずれもそのターゲット層に向けたロゴになっているのは、そのデザインから直感的に理解できるかと思います。
しかし、これらのロゴは決して排他的なデザインを目指している訳ではありません。ブランドは、多くの人に支持されてこそ価値が出るものですので、実はバランスにはかなり注意して仕上げられています。ターゲットの範囲を狭くし過ぎたり、マニアックな方向へデザインし過ぎたりすると、そのロゴは奇異なものとして見られるようになってしまうおそれもあるでしょう。きっとそういったものが、「おしゃれ」を通り越し、「理解不能」「個性的過ぎる」と呼ばれる部類のデザインなのだと思います。
◆発見できると嬉しいユニークなアイデアを潜ませたデザイン
ロゴをおしゃれだと感じるのは、そのデザインが各人の美的感覚にマッチした時に起きるものです。しかし、おしゃれと感じるトリガーはそれだけではありません。この章の冒頭で紹介した「日本のロゴ・マーク50年」にあるロゴ事例を分析すると、「おしゃれ」と評することができる違う観点を見つけることができました。
それは、隠されたユニークなアイデアを発見した時に感じる「おしゃれ」です。
理解しやすいように、料理やファッションを例に説明してみましょう。
料理の場合、見た目の華やかさを「おしゃれ」と表現することがほとんどです。しかしその他にも、料理を食べた時、その料理の個性となっている、普通は使わないスパイスなどの「隠し味」の存在に気付いた時、その料理のことを「おしゃれ」と表現するでしょう。またファッションでも、着ている服の外見が良いと「おしゃれ」と表現するのが一般的ですが、その他にも、例えば服の裏地のデザインや、ズボンの裾に隠れた靴下の色など、見えない箇所への徹底ぶりを「おしゃれ」と評すると思います。
それでは、ロゴにおける、隠されたユニークなアイデアとはどういうものかを、実際の事例で確認していきましょう。
・MONO:2文字目の「O」が、ブランドのメイン商品である鉛筆を上から見た図形になっている
・天神コア:「T」のマークには二人の横顔が、ロゴタイプの「神」には男女の立つ姿が隠されている
・多摩美術大学:マークのフォルムは美術大学の「美」の字がベースになっている
・日高印刷所:「高」のマークの中に、同じく社名の一文字である「日」の文字も隠されている
・中華そば市松:提供するラーメンの個性である煮干しを象った「一」、と「松」の図案で店名の「市松」を表現し、「松」の図案は鶏の横顔にもなっている。
・九州ロゴマーク:暖簾のようなマークは、「九」、「州」、「一」の3文字で作られている。
このような、隠されたアイデアに気付いた時、人は、技巧的なクリエイティブを称賛する気持ちとして、そのデザインを「おしゃれ」と表現することがあると気付いたのです。
しかし、隠れていてこそ「おしゃれ」だと感じさせるこれらのアイデアは、気付かれなければその効果は発揮されませんし、すぐに気付く程度の隠し方では意味がありません。どの程度の隠し具合にするのかがこのデザインのポイントであるため、デザイナーの力量に左右される作り方であると言えるでしょう。
◆属するジャンル・カテゴリー「らしさ」から脱却したデザイン
ロゴデザインには、業界や業種など、ブランドが属するそれぞれのジャンル・カテゴリー「らしさ」というものが存在します。それは、ロゴを一目見た時に、そのブランドが何に関するものなのか伝えることを目的にしており、ブランディングおいてとても重要な視点です。
上記、自動車ブランドとファッションブランドのロゴをご覧ください。いずれもブランド名のイニシャルをモチーフにしたデザインであることは一目瞭然ですが、この共通点こそが「自動車ブランドらしさ」「ファッションブランドらしさ」であると言えます。ブランド自体のことは知らなくても、これらのロゴを見れば、自動車・ファッション関連のブランドであることはすぐに理解できると思いますが、それがジャンル・カテゴリーらしいロゴデザインというものです。
しかし、こういった「らしさ」を備えたデザインとは、見方を変えると、昔からある決まったデザインを踏襲しているだけとも言えます。そしてそこには、デザインを差別化して、競合を出し抜こうといったチャレンジングな姿勢は見出せません。
「おしゃれ」には、少なからず「新しさ」が伴っていなければなりません。ファッションなどでは、過去の流行を上書きした新しい流行のことを「おしゃれ」とよく表現しますが、それは、既存をあえて踏襲しないデザインを「おしゃれ」と評価している例だと言えるでしょう。そうすると、既存のジャンル・カテゴリーらしさが存在するロゴデザインにおいては、その「らしさ」からいかに脱却するかが、「おしゃれ」と評されるロゴを作るカギとなる訳です。
それでは、属するジャンル・カテゴリーらしさから脱却したロゴデザインの例をご覧いただきましょう。
・ピップフジモト:医薬品・衛生用品の業界では新しい吹き出しをモチーフにしたポップなデザイン
・フジサンケイグループ:「人に強い印象を与えるもの」として描かれたユニークなイラストロゴ
・埼玉学園大学:重厚さや、地域性を感じさせるものが多い大学のロゴにおいては斬新なデザイン
・スポーツドリーム整骨院:「骨」の文字を使った大胆なヴィジュアルは整骨院ロゴでは珍しいデザイン
・岡田税理士事務所:シンプルで潔いヴィジュアルは税理士ロゴとしては逆にインパクトあるデザイン
誤解を与えないように補足すると、「らしさ」から脱却するロゴは、ユニークで個性的なデザインでなければならない、ということではありません。仮に、装飾的で複雑な図案のデザインがそのジャンル・カテゴリーの「らしさ」となっていれば、ロゴとしてはオーソドックスなシンプルでミニマムなデザインでも、その「らしさ」から脱却した、「おしゃれなロゴ」だと認められるようになることも大いにあり得るでしょう。
そして、その既存から脱却した新たなデザインも、長い年月を経れば新たなスタンダードとなり、その時代の「らしさ」として過去を上書きしていくことも考えられるのです。
ここまでの考察で、「おしゃれなロゴ」とは、ただ整っていて美しいロゴでないことは理解できたかと思います。そして、この章の考察より、見る人に「なぜだか印象に残る」「ちょっと気になる」と思わせる、「感覚の余韻」を残すロゴこそが、おしゃれなロゴの秘密であることに気付くのではないでしょうか。分かる人には分かるニュアンスや、好奇心をくすぐる要素、意外性がフックとなる工夫などが、ブランドとの距離を縮めるきっかけとなっているのです。
そして、そのロゴづくりにおいて共通しているのは、見る人の知覚や感性に働きかけ、「気づき」を起こすように設計されているということ。感覚的に「おしゃれだ」と感じさせながら、その奥には明確な戦略と意図が潜んでいるのです。
つまり、「おしゃれなロゴ」は、感性に寄り添いながらも、論理で裏打ちされた「計算された違和感」でできているのです。だからこそ見る人の記憶に残り、ブランドの顔として、長く愛されていくのでしょう。
「おしゃれなロゴ」のサンプル調査を行う中で、別の視点で共通点をもう一つ見出すことができました。それは、おしゃれなロゴはデザイン更新のサイクルが早い、すなわち寿命の短い例が多かったことです。
一般的にロゴは、長く使われることでシンボル性が増し、デザインの価値が高まるとされます。世の中から、デザインが「古くさい」「時代に合っていない」と言われても、リニューアルせずに使い続けることで、いつしかそのロゴは「永続性のあるデザイン」として評価されるようになります。中には上記の高島屋の例のように、創業当時に作られてから100年以上経ち、今なお現役で使われ続けている「寿命知らずのロゴ」も存在します。
つまり、「おしゃれなロゴ」にそういった事例が少なかったのは、「おしゃれ」を目指すデザインの場合、何かしらの「新しさ」を伴うことが必要であり、時間の積み重ねによって得られる評価とは対極な作り方・使われ方をしていたからではないかと考えられるのです。
そこでこの章では、「おしゃれなロゴと寿命」というテーマで、より深く「おしゃれなロゴ」のデザインについて考察していきたいと思います。おしゃれでも、長く使えるデザインではあって欲しいはずで、この「おしゃれ」と「寿命」の関係を理解すれば、より寿命の長いおしゃれなロゴを作ることができるようになるはずです。
それでは、おしゃれなロゴの寿命が短い理由について紐解いていきましょう。
2章で取り上げた「日本のロゴ・マーク50年」を調査していた中で、そのことを考察するのに適した事例があったので、ここではその事例を紹介しながら考察についての解説をしていきたいと思います。
その事例とは、ソニーが1979年に商品発売を開始し、現在はその商品名が事業ブランド名になった「WALKMAN(ウォークマン)」のロゴです。上記がそのロゴですが、初代ウォークマンの爆発的ヒットの一助となった有名なものなので、その世代では見覚えある方も多いのではないかと思います。
ウキウキした感情を表すような字体、足を生やし擬人化したタイポグラフィなど、「音楽を持ち運ぶ」というブランドコンセプトをストレートに表現したユニークなデザインは、和製英語である「WALKMAN」というネーミングとともに、若い世代だけが理解できる感覚で作られていたことが、下記のブランド名議論に関する引用記事からも窺うことができるでしょう。ちなみにこのロゴデザインは、2章で考察した中では、“特定のターゲット層だけが理解できる美的感覚に刺さるデザイン”、”属するジャンル・カテゴリー「らしさ」から脱却したデザイン”の2つを備えていると言えます。
ところが、こんな変な和製英語はとんでもない、といきまく人も出てきて物議をかもした。しかし、盛田は、考えた人たちの意志を尊重した。「使うのは若い人だ。若い人たちがそれでいいと言うのだからいいじゃないか」。この言葉に勇気づけらた宣伝部の担当者たちは「もう今さら変えられない、英語でなければ、エスペラント語だと思ってください」と言って押し切ってしまった。実は、パッケージもポスターもすべて、「ウォークマン」で準備を進めていたのである。何しろ時間がない。
(引用:ソニーグループポータル
Sony History 第6章 理屈をこねる前にやってみよう)
2カ月余りで初回生産の3万台が売り切れる爆発的ヒット商品となった初代ウォークマンですが、その勢いを受け、改良版である2代目以降からは、幅広い世代からの支持も狙って展開することなるのですが、ここでロゴについてある変化が起きます。それは、商品本体の方にはそのユニークなロゴとは別の、現在のロゴデザインに通ずる未来感やテクノロジーを感じさせるプレーンなロゴが付されるようになったのです。
2つのロゴはあまりにもデザインテイストが異なることから、ロゴを見ただけでは同一の商品だと思わない人もきっといたことでしょう。下記の画像は当時のCM映像ですが、映像前面にあるユニークなロゴの後ろには、プレーンなロゴが付された商品本体が映っています。こうしてウォークマンのロゴは、しばらくの間、ユニークなものとプレーンなものを両方使うという、ダブルスタンダードの時代が続くことになるのです。
このようなダブルスタンダードを許すことにしたのは、おそらく2代目の商品発表以降、広い世代に支持されるようになったウォークマンにとって、若い世代だけをターゲットにした初代のユニークなデザインのロゴがブランドのイメージ合わなくなってきたからだと考えられます。
そうして初代のロゴは、CMなどの広告媒体に使われることはあっても、その後本体に付されることは一度もないまま次第に姿を消すことになります。皮肉なことに、初代ウォークマンの成功が、そのロゴの寿命を縮ませる結果に繋がってしまったという訳なのです。
この事例の考察で分かったのは、短命で終わった初代ウォークマンロゴは、話題やブームを起こすためだけに作られたものだったいうことです。文字に足を生やす等、ユニークなデザインにチャレンジしたのも、そのことで説明がつくでしょう。
もちろん、世の中にある全ての「おしゃれなロゴ」が、初代ウォークマンのロゴのように、話題やブームを起こすためだけに作られている訳ではもちろんありません。しかし、このウォークマンのロゴ事例考察のように、「寿命」という視点で他のおしゃれなロゴ事例を改めて俯瞰してみると、同様な事例が非常にたくさんあることが分かりました。
そして、これらおしゃれなロゴデザインの多くは、コラム冒頭で述べた「ブランド価値の向上」といった大きな意義達成を目指したものではありません。ウォークマンで言えば「話題やブームを起こすため」という目的のように、あるひとつの目的を成功させるためだけに作られた「消費されるデザイン」だったのです。そのために、おしゃれなロゴは寿命の短いものが多いのだと考えられます。
まずは自分がおしゃれだと思う事例を集めてみましょう。そうすることで、おしゃれだと思うデザインの傾向が上記のように整理できると思います。整理できた数だけおしゃれなデザインのバリエーションがあると考えてよいでしょう。その中から、内容に応じてどのパターンのデザインを適用するか考えればよいのです。こうして整理することで、デザインの引き出しを自分の中に作り上げることができます。そしてその引き出しがあればあるほど、より相応しいデザインを作ることができるようになるはずです。
最初から思い通りにおしゃれなロゴを作るのは不可能です。頭の中で思い描いていても、実際形にするとなるとなかなか上手くは行かないものです。そこでまずは真似することから始めてみましょう。自分が作りたいと思っているおしゃれなロゴに近い事例を探し、それを参考にデザインしてみるのです。そうすることで、どこをどうしたらおしゃれに見えるのか、そのポイントが少しづつ掴めるようになると思います。
ただし、まるっきり同じものを作るのはやめた方が良いでしょう。それは、ただトレースをしただけで、おしゃれに見えるのかポイントが掴めないまま終わってしまうかもしれないからです。自分なりのオリジナリティが出るように、多少のアレンジは加えることが大切です。またあまり似せすぎると著作権や商標権に抵触する可能性もあるのでそのあたりも注意もするようにしましょう。
自分がおしゃれだと思うデザインは上記2点で少しづつできるようになると思います。しかしそのデザインを他の人が見て「おしゃれ」と感じるとは限りません。デザインの評価はあくまで主観的で、詰まるところおしゃれと思うかどうかは個人の好みによるものなのです。
ではどうすれば他の人にも「おしゃれ」と思われるロゴが作れるのでしょうか。そのためにはおしゃれなデザインの流行やトレンドを追うようにしましょう。流行やトレンドは多くの人に受け入れられているという証拠なので、そのデザインを取り入れることで、他の人にもおしゃれと感じてもらえるロゴがきっと作れるようになるでしょう。
オシャレなロゴを作る第一歩はまずコンセプトをしっかりと決めることです。対象の内容をしっかり吟味したうえで、どういった方向性のデザインにするかをまず言語化することが大切です。デザインの方向性がぼんやりしていたり、欲張って色んなデザインをあれこれ取り入れ過ぎたりすると、表現したいことが分かりづらい、ピントのボケたデザインになってしまいます。ですので、前述の「おしゃれと感じるデザインは色々ある」で示したように、どの方向性のデザインにするかしっかりと絞り込むことが重要です。
ロゴはよく、連想されるモチーフなどを使い、意味やメッセージをデザイン込め、オリジナリティある唯一無二のものを作ろうとします。しかしあまりそこにこだわり過ぎると、デザインの自由度がどうしても狭まってしまい、見た目のおしゃれさが損なわれてしまうこともしばしばあります。もちろん意味やメッセージを込めることは大切ですが、おしゃれなロゴを作るというテーマの方が大きい場合は、あまりそれにとらわれず、見た目の方を優先してデザインしていった方がよいでしょう。
ひとつの案だけでは果たしてそのおしゃれさがきちんと出来上がっているか検証できないものです。コンセプトに沿ってさまざまな角度からデザイン案を作り、比較した上で最もおしゃれと感じる案を作り上げていくとよいでしょう。特に色については流行やトレンドも踏まえながら、複数色のバリエーションは必ず作り、その中から最適な色を絞り込んでいくようにしましょう。
おしゃれなロゴが出来上がったと感じていても、本当にそれがおしゃれと感じてもらえるかどうかは、世に出してみないと分からないところもあります。なぜなら、競合や同種のロゴと比べてそのおしゃれさがもし劣っていたら、想像していたような効果が得られないかもしれないからです。ですのでロゴが出来上がった時は、必ず競合や同種のロゴと並べて見て、遜色ない仕上がりになっているかどうかを確認することが大切です。ブランディングは他者との競争ですから、ロゴでも負けないように意識を持つことが重要になります。
デザインの評価は主観的なもの、と前述しましたが、多くの人から見られるロゴがおしゃれに感じるかどうかを冷静に評価するために、一度人に見てもらうのも有効な手段です。デザインに精通した人に見てもらうのももちろん良いですが、できればデザインとは関係のない、ユーザー目線で見ることができる一般の方のほうがよい良いでしょう。「おしゃれ」という観点はとても感覚的なものなので、ロジックではなく、あくまで出来上がりの見た目でおしゃれと感じるかどうかを客観的に判断してもらうと良いと思います。
SAATHAUS(工務店による住宅ブランド)
「家が”きっかけ”になる」をコンセプトに、「家のたね」をモチーフにデザインしたロゴです。家づくりを身近で、親しみあるものに感じられるよう、まるっこく、かわいらしい雰囲気に仕上げました。トータルブランディングも意識し、サイトデザインとも呼応したデザインになっています。
Beans College(Web制作を学習するスクール&コミュニティ)
「スクールとコミュニティのあいだ」をコンセプトに、盾をモチーフにデザインしたロゴです。アカデミックな雰囲気は残しつつも、親しみやすいコミュニティであることが感じられるようにデザインしました。名前の由来である「豆」を連想させる芽の図形を取り入れるなどの工夫もしています。
株式会社リプカ(SNSマーケティング支援・WEB広告支援を行う会社)
「幸せが運ばれるつながり」をコンセプトに、なめらかに繋がれた社名が特徴のロゴタイプです。企業としての信頼感もありつつ、オリジナリティ溢れる雰囲気の字体によって、アイデンティティを強く感じさせるデザインに仕上げています。
interval studio(小売業の企画・デザイン集団)
「空白に新たな価値や物語を創る」をコンセプトに、屋号の由来である「間(=interval)」を「[ ](カッコ)」のモチーフによって表現したロゴです。モチーフ設定でユニークなヴィジュアルを作り出し、赤と黒の対比的なカラーリングで独創的な雰囲気を際立たせたデザインです。
Toiro(ヘアサロン)
「女性の輝き・華やかさ・煌びやかさ」をコンセプトに、花や宝石をイメージしてデザインしたロゴです。華やかさ、煌びやかさのあるデザインとしつつも、どこか包容力や、無から有を生み出す創造力も感じられるように仕上げております。
株式会社BREEZE(キャンプ場運営会社)
「森の中の家」をコンセプトに、自然や環境への敬意を表現したロゴです。一筆書きで描いたようなデザインで、やさしく親しみやすいヴィジュアルにしつつ、キャンプ場ならではの「自らの手で」という雰囲気も感じられるように仕上げております。
株式会社ミスターアザーズ(美容系IT企業)
「人に礼を尽くす」をコンセプトに、「相手に最大限敬意を払う、自分以外の人達を大切にする」という社名に込められた意味を表現したロゴです。脱帽した紳士の姿をそのままモチーフに用いるというユニークな表現方法でデザインいたしました。
株式会社DESTAJAPAN(資産コンサルティング会社)
「栄冠を経て、循環から辿り着いた到達点」をコンセプトに、最終的には資産があるべき場所へと辿り着くという考え方を表現したロゴです。イニシャルの「D」をベースに、資産の運用に成功した人が栄冠・栄光を掴んだイメージを「トロフィー」のモチーフでデザインしております。
mugi(ヘアサロン)
「踏まれて強く育つ」という、店名の由来をコンセプトにしたロゴです。その名称に相応しく、地平線から昇ってくる太陽のモチーフを取り入れ、コンセプトに相応し骨太な雰囲気がありつつも、ヘアサロンらしい繊細さも感じさせるデザインに仕上げました。
株式会社UNISEED HOLDINGS(マッチングやプロデュース事業を行う会社)
「未来へ成長していく価値の発見」をコンセプトに、グループ会社を統括する会社に相応しい雰囲気にデザインしました。イニシャルの「U」と「S」を組み合わせた図形をベースに、未来へ成長していく価値を象徴する「芽」を添えつつ、格式と遊び心が同居したようなデザインに仕上げました。
一言におしゃれなロゴと言っても、なかなか奥深いことが分かって頂けたのではないかと思います。
通常のロゴの作り方とは異なる点もいくつかご紹介することができ、ロゴを作る側の方にも参考にして頂けたのではないでしょうか。
せっかく作るロゴですので、おしゃれなものになるように努めていきましょう!
【このコラムの執筆者】
西村渉(にしむら・わたる)|当サービスsynchlogoの運営責任者兼チーフデザイナー。ロゴデザイン事務所「nishimuraLOGO.design」主宰。ストックロゴ型ロゴデザインサービス「ロゴマーケット」参画。
ロゴデザインのキャリアはクラウドソーシングと某無料提案型ロゴデザインサービスでの活動からスタート。その後様々な企業・個人からのロゴ作成業務を請け負う傍ら、自身でもロゴ制作サービス「synchlogo(シンクロゴ)」を立ち上げ、年間数十件のロゴ作成を依頼されている。ロゴデザイン業を専門とした事業を始めて10期目となり、同業界に幅広く精通している。
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