
ロゴ制作・ロゴデザインを依頼するならsynchlogo(シンクロゴ)
COLUMN
synchlogoにロゴ作成をご依頼くださるお客様の中で特に多いのは、会社を起業されたばかり、あるいは起業する予定がある方々です。その方々になぜロゴを作ろうと考えたか伺うと、第一に世の中に自社を知ってもらう「認知」のため、第二に競合他社との「差別化」のためという答えが返ってきます。ちなみにこうした会社の認知や差別化といった課題を解決しようとする動きは、いわゆる「ブランディング」と呼ばれる戦略の一環で、無意識のうちにそれを行っているお客様も多くいらっしゃいます。
近年「企業にもブランディングが必要」という考える会社は増えており、様々な会社がCI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ヴィジュアル・アイデンティティ)を取り入れ、会社の「見え方/見られ方」に関わる部分をしっかりと整えるようになってきました(CI・VIについてはこちらを参照)。なお大きい会社ほどその傾向は強く、WebサイトやCM、ポスターやパンフレットなど、その会社との接点となるありとあらゆるものが、一貫したある世界観でトータルにデザインされ、ブランディングの達成具合を競っています。そして会社のロゴは、そのブランディングにおいて、重要で有効なツールとして位置付けられています。
このコラムではsynchlogoがこれまで制作してきたロゴ制作事例や、その他著名な企業のロゴ事例などを通じて、起業時のブランド戦略としてどのようにロゴを取り入れるべきか、またどのようにロゴを作っていけば良いかについて考察していきたいと思います。
【このコラムの執筆者紹介】
西村渉(にしむら・わたる)|当サービスsynchlogoの運営責任者兼チーフデザイナー。ロゴデザイン事務所「nishimuraLOGO.design」主宰。ストックロゴ型ロゴデザインサービス「ロゴマーケット」参画。
ロゴデザインのキャリアはクラウドソーシングと某無料提案型ロゴデザインサービスでの活動からスタート。その後様々な企業・個人からのロゴ作成業務を請け負う傍ら、自身でもロゴ制作サービス「synchlogo(シンクロゴ)」を立ち上げ、年間数十件のロゴ作成を依頼されている。ロゴデザイン業を専門とした事業を始めて10期目となり、同業界に幅広く精通している。
【目次】
まず下の2つの名刺を見てください。左はロゴがない名刺、右はロゴがある名刺ですが、これを見比べてどう感じるでしょうか。左のテキストだけで構成された名刺からは、そこに書かれてある諸情報以上のものは特に感じられません。一方右の名刺からは、デザインされたロゴが加わったことにより、「この会社は何かやってくれそう」という期待感が感じられるようになっていると思います。名刺は、従業員および所属する会社の情報を伝えることを目的にしたものですから、会社のロゴを載せることは必ずしも必要ではありません。しかし右の例のようにデザインされたロゴを載せることによって、名刺が単なる情報を伝える媒体から、その会社のイメージアップに貢献する媒体へと変化していることが分かると思います。
会社の場合、ロゴを入れる媒体として一般的なのが、上記の名刺をはじめとしたビジネスアイテムです。現在ビジネスアイテムは単なる仕事道具ではなく、企業ブランディングにおいてはブランド形成のための重要な発信材料と位置付けられています。使用する全てのビジネスアイテムをある方向性のデザインで揃えると、その会社は強固なブランド感を獲得することができるでしょう。
しかし大掛かりなブランディングができるのは事業が安定した余裕のある会社だけで、起業したばかりの会社にできることは限られています。ただ、何もできない訳ではありません。起業時に必須となるビジネスアイテムに、上記の名刺のようにしっかりしたロゴを入れるだけでも、十分社会にアピールできる発信材料へと変化させることは可能なのです。
それでは起業してすぐにできる会社のブランディングとして、ロゴを入れることで会社のイメージアップ効果が得られるビジネスアイテムの紹介と、それらにおけるロゴのはたらきを具体的に見ていきましょう。
◆名刺
先ほども例として挙げましたが、ビジネスシーンで最も身近なアイテムが名刺です。synchlogoでもお客様の半数近くが「名刺も合わせて作って欲しい」とご依頼くださいます。今の時代、名刺を持っていることはもはやマナーであるとも言えるでしょう。
名刺におけるロゴのはたらきとして、テキストだらけのカードに個性を与えることが挙げられるでしょう。氏名や社名、住所・連絡先等のテキストしか書かれていない名刺には特徴がなく、受け取った人には何の印象も残さないと思います。また名刺は、テキストのレイアウトが少々異なるくらいで、突出したデザインの違いはほとんどんなく、記憶に残る箇所と言えばロゴのデザインくらいなものなのです。名刺の役割のひとつとして、渡した相手に自分のことを覚えてもらうというのがあると思います。ですが名刺そのものの印象が薄いと、その役割を十分に果たすことはできないでしょう。よって名刺を印象的に魅せるロゴの存在が重要となる訳です。
◆封筒
封筒は書類や資料を郵送・発送する際や、持ち歩く際の包装として使われます。封筒自体のサイズは決まった規格が何種類かありますが、ビジネスシーンでよく使わるのは「長3」「角2」と呼ばれる規格です。
名刺と同じく、封筒もロゴと一緒にデザインのご依頼を頂くことが多いビジネスアイテムですが、近年はインターネットの普及により、情報の送受信をアナログで行うことが少なくなり、封筒により郵送・発送を行うことは徐々に少なくなっています。しかしビジネスシーンでは、機密情報などの取り扱いではいまだ必要な場面があり、また「重要書類はやはり紙が良い」という旧来の考え方も根強く、現在もなお、封筒をビジネスアイテムとして準備している=企業として信頼できるという見方をされることもしばしばあるでしょう。
そんな封筒ですが、包装面に目を向けると、その多くには郵送・発送する際の発送元情報として会社名や住所、氏名などを印刷するのが一般的です。そして封筒デザインについては、名刺デザイン同様それらテキストのレイアウトが少々異なる程度で、やはり突出したデザインの違いはほとんどんなく、記憶に残る箇所はロゴのデザインくらいになります。そのため名刺同様ロゴには封筒に個性を与えるはたらきがあると言えます。
一方名刺と異なるのは、外出時に持ち歩くことがあるという点です。顧客が資料を入れて持ち帰ったり、従業員が書類を客先まで持ち歩いたりなど、移動時に使う袋としても活用されます。その封筒にロゴが印刷されていれば、ショッピングバッグと同様なはたらきをし、PRツールとして活用することもできるでしょう。
◆会社案内
会社案内は、パンフレットやリーフレットといった形で作られますが、いずれも会社の概要や事業の内容、理念やヴィジョンなどの情報をまとめたものです。会社の自己紹介をするためのツールですので、限られたページ数で分かりやすく要点をまとめて作ることが大切になります。
そんな会社案内において、ロゴがイメージアップ効果にどのようにはたらくかというと、会社ロゴが紙面デザインのトンマナになるということです。トンマナとはトーン&マナーの略で、「トーン(tone=色や色調)」と「マナー(manner=様式や作風)」という意味から成っているものですが、ブランディングにおいて様々な媒体のデザインに統一感を与えるための概念として知られています。
具体的には、ロゴに使われている色を紙面のベースカラーやアクセントカラーに使ったり、ロゴのデザインモチーフを紙面にも取り入れたりします。ロゴは、紙面における単なるシンボルとして機能するだけでなく、紙面デザインの指針としてもはたらいていると言えるでしょう。
◆資料・書類
説明やプレゼンテーションに使用する資料や、見積書や送信票などの書類などは、仕事をスムーズに進める上で不可欠なものです。しかしそれらを作る際、内容が端的に伝わるようにする工夫は試行錯誤しますが、資料自体の見栄えについては無頓着になりがちではないでしょうか。テキストやグラフ・表、写真や画像など、資料や書類に収めなければならない情報量は少なくなく、それをまとめるだけでもかなり労力はかかります。1度の会議資料のためだけにデザインを頑張れないのは、かけた労力分の結果が期待できないからに違いありません。
ですが、やはり多少の見栄えは気になります。どんなに内容が良くても、資料や書類の見た目がイマイチなせいで、内容の信憑性を下げてしまうことを懸念する人も少なくないのではないでしょうか。
そこで活躍するのがロゴです。テキストやグラフなど無機質な情報が並ぶ中、資料や種類の隅にロゴを添えておくと、それが紙面のアクセントとなり、それなりに見栄えのする資料・書類が出来上がります。また会社案内と同様に、ロゴのトンマナをテキストやグラフといった資料・書類を構成する要素にも適用できると、よりイメージアップにつながる「媒体」として仕上げることができるでしょう。
◆看板
建物や店舗がそこにあることの目印として、あるいは宣伝広告として設置する看板は、コーポレートロゴが最も活躍する設置箇所のひとつと言っても過言ではないでしょう。コーポレートロゴは会社の「顔」とよく言われますが、まさに顔としての使い方がこれだと思います。
看板はアイキャッチを目的にしていることから、どの距離からどのくらいの大きさで見えるかという視認性が重要となります。見え方によってその会社の風格や威厳など、感じられるイメージが異なってくるため注意が必要です。
また他のビジネスアイテムとは違い、看板はロゴをメインにデザインされます。ここまで紹介した名刺、封筒、会社案内、資料・書類はDTP(Desktop Publishing=パソコン上で印刷物のデータを制作すること)と呼ばれるデザインの範疇で、載せる情報や要素の優先順位や主従関係を整理し機能的な紙面となるように制作します。そのためデザインの中でロゴの存在感が1位にならないこともしばしばあります。一方看板は必ずロゴが主役で、とにかくしっかり目立つように使われます。よって、看板は最もロゴが活躍できるビジネスアイテムだと言えるのです。
◆Webサイト
※Web制作:株式会社ENVY DESIGN
Webサイトは、今や会社にはなくてはならないビジネスアイテムになりました。会社が行っている事業の紹介、規模や仕組みなどの組織情報の掲示、ブログやお知らせなどの広報、Q&A、問い合わせフォームなどを備えたコーポレートサイトをはじめ、商品やサービスを販売するECサイト、動画などを配信するコンテンツ配信サイト、Amazonや楽天といったマーケットプレイスなど、会社とユーザーをつなぐ基盤(プラットフォーム)として、現代ビジネス社会におけるインフラ的な扱いになっています。
そのWebサイトにおいて、ロゴはほぼ必ずトップページに掲げられています。そして多くのWebのデザインは、会社案内同様、ロゴのトンマナを踏襲したデザインとなっている例が多く見られます。しかし会社案内の場合、ロゴは表紙でも控えめなところにあったり、裏表紙など目立たない場所に配置されることもしばしばですが、ホームページではほぼ必ずトップページ一番上に配置されていると思います。
これはもちろん、ロゴをWebサイトのアクセント、アイキャッチとしてはたらかせるデザイン的な意味もあります。しかし、ほとんどの企業サイトにおいて、「ロゴをクリック=サイトのトップページへ移動」というユーザビリティ的観点の機能も与えられており、そのため最近のサイトでは、スクロールしてもロゴもしくはロゴを含むヘッダー部分だけはブラウザ上に表示され続け、いつでもロゴをクリックすればトップページまで戻れるようになっているのです。
◆SNS
近年のビジネスシーンでもSNSの活用が頻繁に見られるようになりました。もともとは個人の発信ツール・コミュニケーションツールとしての利用がほとんどだったのですが、今ではPRのために導入する会社も多く、X(旧Twitter)やFacebookをはじめ、InstagramやTikTok、YouTubeまで活用する例も見られるようになってきました。
会社がSNSを活用する際、ロゴはプロフィールやタイムライン上に表示されるアイコンに使われることが多くあります。synchlogoのお客様でも、「SNSのプロフィール画像にも使うので、円形に上手く収まるようなプロポーションでデザインしてください」といったご要望も増えています。
アイコンは、現実世界における看板のような役割を果たしていることから、視認性が非常に重要となります。たとえばタイムライン上には様々なアイコンが並び、その中では自社のアイコン(ロゴ)が目を惹く存在とならなければなりません。さらに、表示されるアイコンのサイズは非常小さく、豆粒のようなサイズでも視認できるロゴでなければアイコンとして機能しないというのがSNSならではの特徴として挙げられます。
コーポレートロゴについて、1章では起業してすぐにできる使い方について考察いたしました。続くこの2章では、起業時のブランディングに適したロゴとはどんなロゴなのか?について考えていきたいと思います。
まず知ってもらいたいのは、ロゴには大きく2つの種類があるということです。ひとつはシンボルマークを有する「ロゴマーク」と呼ばれるもの。もうひとつはシンボルマークを持たない、企業名の文字列にデザインを加えロゴ化した「ロゴタイプ」です。
ロゴマークもロゴタイプも、コーポレートロゴではどちらも使われているものですが、「ロゴ」と言えばシンボルマーク、すなわちロゴマークの方を思い浮かべる人も多いかと思いのではないでしょうか。ではどちらの方が会社のロゴとしては多く使われているか調べてみましょう。
上記「Best Japan Brands 2025 Rankings」は、日本の企業によって生み出された、ブランド価値が高いとされる企業および事業ブランド100点のロゴです。この中で、シンボルマークを有するロゴマーク型のロゴは40点ほどで、残りの60点は全てロゴタイプ型のロゴとなっており、このサンプルではロゴタイプ型のロゴの方が多いことが分かると思います。
しかしこれを見て違和感を感じる方もいると思います。それは、たしかに上記の100点においてはロゴタイプの方が多い結果となっていますが、普段生活している中ではシンボルマークのあるロゴの方を見る機会が多く、感覚的にはロゴマークの方が多いような気がするのではないでしょうか。
そこで違うサンプルとして、当サービスsynchlogoで制作したロゴ制作実績でも調べてみました。「Best Japan Brands 2025 Rankings」と同時期の、2020年前後に制作したロゴを無作為に100点ほど集めてみたところ、ロゴタイプ型のロゴはわずか7点ほどで、ロゴマーク型のロゴは93点にものぼりました。
この2つの結果より、「大企業ほどロゴタイプ型のロゴを使う」「中小企業はロゴマーク型のロゴを使う」という傾向があるのではないか推察されました。なぜなら「Best Japan Brands 2025 Rankings」に選出されている企業はいずれも日本を代表する会社が多いのに対し、synchlogoにロゴ制作をご依頼くださるお客様は起業したばかりの会社や中小企業が多いからです。
そうすると、会社を大きく見せるという意味では最初からロゴタイプでコーポレートロゴを作った方が良いのではないか?という考えに至ると思います。たしかに社名だけをすっきりとデザインしたロゴタイプ型のロゴからは、起業してすぐとは思えない余裕や潔さが感じられ、実際以上の規模に感じられる効果をもたらすかもしれません。しかし筆者はそのやり方は難しいと考えています。それは以下2つの理由があるからです。
①アピール力が弱い
社名の文字列自体をデザインしたロゴタイプはシンプルで潔さがある一方、特徴的な色やユニークな字体などでヴィジュアルに一定のアピール力を備えなければ、短時間でユーザーや消費者に覚えてもらうことは難しいでしょう。しかしアピールに重きを置いたデザインは、奇をてらうような方向になりがちで、逆に大企業らしくないロゴになってしまう恐れがあります。
大企業がロゴタイプを使うのは、既に認知も差別化も十分行えているため、ロゴデザインにアピール力を求めていないからだと思います。つまり逆を言うと、大企業らしい落ち着いたロゴにすると、起業直後に必要となる認知と差別化に寄与するはたらきが得られにくくなってしまうという訳です。会社にとってそれは不本意で、会社の顔となるロゴには自社を大きく見せることよりアピールの役割を果たしてもらうことの方が大切であるため、起業してすぐのタイミングでのロゴ作成にロゴタイプは適しておらず、アピール力あるデザインのシンボルマークを有するロゴマークを採用した方が良いと考えられます。
②ブランド展開のためのデザイン要素として使いづらい
ブランド戦略の一環として持続的かつ効果的なPRが行えるように、ロゴはデザインの一要素として、1章で紹介したビジネスアイテムのほか、会社が提供する商品やサービスのあらゆるところに使われるようになります。例えばNIKEやスターバックスコーヒーの商品を見ると、商品や商品パッケージのデザインはロゴを中心に組み立てられており、そのことを見越してロゴのデザインを更新しているのではないかとも考えられるほどです。
ロゴをブランド展開のためのデザイン要素として考えた時、シンボルマークであれば、上記のNIKEやスターバックスの例のように商品やパッケージ等へ汎用的に用いやすいですが、ロゴタイプは結局「文字」でしかないため、商品やパッケージを映えさせることに貢献しづらいことが容易に予想できます。もちろんユニクロのように、ロゴタイプをシンボルマーク的にデザインし、デザイン要素に用いている例もあります。しかしそれは会社名が短くシンプルであることを活かしたやり方であって、世の中のほとんどの会社はそれに当てはめることはできないと思います。したがって起業してすぐのブランド展開という面でも、起業してすぐのタイミングでのロゴ作成にロゴタイプは適しておらず、ブランド展開のための1デザイン要素として貢献しやすいシンボルマークを有するロゴマークを採用した方が良いでしょう。
コーポレートロゴが、時代を経てロゴマークからロゴタイプへと変化していった例をひとつご紹介いたしましょう。上記は「Best Japan Brands 2025 Rankings」でも選出されている花王のコーポレートロゴの変遷です。これを見ると、少しずつ形を変えながらではありますが、当初作られた月をモチーフを残しつつ、しばらくはシンボルマークがコーポレートロゴとして使われていました。そこに「花王」や「KAO」の文字が入りロゴマーク化した後、現在ではシンボルマークのない、2021年からは「Kao」の文字だけのロゴタイプが使われるようになっています。またこのロゴタイプに至った理由について、花王オフィシャルサイトではこう書かれています。
グローバルに統一した企業イメージを印象づけることを目的に、花王グループを表すロゴを英文字の「Kao」に変更しました。
このように、世の中に「花王」のブランドが確立され、それまでロゴが担っていた「認知」「差別化」という他社との競争という意味でのブランディング的役割は終えたと言うことができるでしょう。そのためデザイン的には自社と競合他社とを見分ける「記号」程度の個性で良く、全世界で通用するシンプルな「kao」の3文字だけのロゴタイプになったのだと考えられます。
最後に、「Best Japan Brands 2025 Rankings」のロゴ事例をロゴタイプとロゴマークに分けた上の図を見比べてみてください。ロゴタイプの方は、色や字体に工夫はあっても、ロゴマークに比べるとデザイン的なこだわりはさほどなく、極めてシンプルに作られているように感じられると思います。
シンボルマークを使うのをやめ、新たに掲げたロゴタイプのシンプルさこそが、会社が成熟した証であるとも言えるのではないでしょうか。
会社のロゴマークにおいて、ロゴタイプは社名そのものですが、シンボルマークとはそもそも何なのでしょうか?
マークとして見栄えを良くするための図形であることは間違いないはずですが、それだけで「シンボル」と呼ぶには力不足ですし、その程度のもので良ければ作成するのにデザイナーなど専門家の力も必要とはしないでしょう。
そこでロゴマークのデザイン傾向を探るにあたって、まずは「シンボルマーク」が「ただのマーク」とは違う点について、実際の事例を見ながら整理していきたいと思います。
上の図集は主に公共の場で見かけたことがあるものばかりだと思いますが、これらは「ピクトグラム(案内用図記号)」と呼ばれるものの一部です。「文字に頼らず図形で情報を伝える」という特徴はシンボルマークとも共通していますが、ピクトグラムはあくまで視認者を案内するためだけに作られた図形ですので、「ただのマーク」であると言えるでしょう。
次に示す、上記左の図は「鉄道/鉄道駅」を示すピクトグラム、右は東京を走る地下鉄「東京メトロ」のシンボルマークです。どちらも同じ鉄道インフラのマークですが、東京メトロの方は、存在を知らなければ鉄道や鉄道会社のマークには見えないと思います。では東京メトロのシンボルマークデザインは何を表そうとしているのか、公式サイトの記述を確認してみましょう。
ハートを模したM(「ハートM」)は、メトロ(Metro フランス語で「地下鉄」の意)のほか、東京の中心にあるという存在感やお客様の心に響くサービス、心のこもったサービスを提供し続けるという意志を表します。背景色にはコーポレートカラーである「ブライトブルー」を採用。活き活きとした元気なイメージで、東京メトログループの理念「東京を走らせる力」を表現しています。
引用:東京メトロHP「コーポレートアイデンティティ」より
このように、シンボルマークとは、会社が世の中に主張している姿勢や考えを表現した「コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity:CI)」を形にしたもので、そのためピクトグラムのように鉄道や鉄道会社であることを表現する記号的デザインを第一義とはしていないのです。これがピクトグラムと違う点の1つ目です。
また、ピクトグラムの方は一目で鉄道だと分かるマークであるのに対し、東京メトロのシンボルマークを見て気付くことは、何となくメトロのイニシャルである「M」の文字をアレンジしたマークかな?くらいではないかと思います。上記公式サイトの解説を読めば納得できると思いますが、初見でそのデザインの意図を正確に理解することは難しいと思います。
実はそれこそがピクトグラムとは違う点の2つ目で、東京メトロのシンボルマークは、そのデザイン意図を視認者に考えさせる、あるいは調べさせることで、東京メトロという会社に興味・関心を持ってもらう広告的役割も担っているのです。極端ですが、あえてデザインの意図を分かりにくくしていると言っても良いかもしれません。
まとめると、シンボルマークがただのマークと違う点とは、
①コーポレートアイデンティティを形にしたものであり記号ではない
②視認者に興味・関心を持ってもらう広告的役割も担っている
以上の2つだと言うことができるでしょう。
それを踏まえて、最近の会社ロゴマークはどのようなものが好まれているか、起業時のロゴ作成の参考になるようデザイン傾向を確認していきたいと思います。
ロゴマークは、制作を担当するグラフィックデザイナー達のセンスやテクニックにより、個性的でバラエティ豊かなデザインが生み出されるものです。しかし会社のロゴマークにおいてはデザインにある傾向を見つけることができます。それは、会社のロゴマークは会社名とリンクしたデザインが多いということです。前出の「Best Japan Brands 2025 Rankings」に挙げられているシンボルマークを有する40社のロゴのうち、実にその約半分ほども会社名とリンクしたデザインとなっています。
それではそのBest Japan Brands 2025 Rankingsに挙げられている中から何社かのロゴマークをピックアップし、会社名とリンクしたデザインとは具体的にどういうものなのかを解説していきたいと思います。なおその作られ方は大きく5種類に分類することができますので、以下1つずつご覧ください。
会社名が何らかの事物を由来としたネーミングがなされており、その事物をモチーフにシンボルマークをデザインしたのがこのパターンです。先ほど挙げた39社の中では、日本の財閥系企業である三菱グループの3つの菱形をモチーフにしたロゴマークがそうであるほか、海外ではiPhoneやMacで有名なアップル社のリンゴのロゴマークも代表的な例として挙げられます。
このシンボルマークは、会社名の由来となっている事物をそのままモチーフにすれば良いだけですので、デザイナーのひらめきや発想力はさほど必要とせず、そのモチーフをいかに洗練させた形にデザインできるかがデザインクオリティに繋がってくるのです。
こちらは、①のように会社名=モチーフというパターンではなく、会社名を連想させる事物をモチーフに用いてデザインしたパターンです。先ほど挙げた39社ではワークマンのロゴマークが最もその特徴を表しています。
「ワークマン」は建設現場などで働く作業者向けの衣類やツールを取り扱っていることから、作業者=WORKMANがそのままネーミングされています。シンボルマークを建設現場で使われる縞鋼板のモチーフにしたのは、そのネーミングがストレートに連想できることを狙っていると考えられます。
このシンボルマークの作り方はモチーフ選びがとても重要で、的確に連想しやすい事物がいかに見つけられるか、会社のイメージにぴったな事物が見つけられるかがデザインのクオリティに繋がってくるのです。
会社名にはその名前にした由来が必ずありますが、その由来を何らかの形でヴィジュアル化し、ロゴマークへとデザインしたのがこのパターンです。先ほど挙げた39社にある大和ハウスのロゴマークは「輪」の形が象徴的なデザインですが、これは企業名の「大和」を「ヤマト」ではなく「ダイワ」と読ませた理由である「大いなる和をもって経営に当たりたい」という理念がデザインのソースだと言われています。
このシンボルマークの作り方は、会社名の由来をどのようにヴィジュアル化するかがデザインの方向を大きく左右します。ですからデザイナーがその舵取りをしっかり行い、会社のイメージと上手く一致させることが重要になってくるでしょう。
会社名の文字列を組み合わせてロゴマークを作るパターンです。先ほど挙げた39社では「UNIQLO」の6文字をロゴマーク化したユニクロが代表的な例として挙げられます。
このシンボルマークの作り方は、文字列をいかにロゴらしくロゴ化できるか、また文字をどのようにマークに相応しいデザインにするかが重要で、デザイナーのデザイン力がそのまま出来上がりの質を左右する作り方です。
会社名のイニシャルを用いてロゴマークを作るパターンです。先ほど挙げた39社だと、BRIDGESTONEの「B」をモチーフにしたブリジストンのロゴマークが代表的な例として挙げられます。
このシンボルマークの作り方は、会社名のイニシャルをそのまま形にすれば良く、ハイクオリティなデザインにするにはいかにそのイニシャルの形を洗練させるか、また他のモチーフなどをいかに上手く組み合わせられるかが重要になってきます。
次に、会社名とリンクしたデザインのロゴマークは実際どのようにして作られるのかを解説していきたいと思います。これを読むことで企業の「顔」となるロゴの作り方が理解でき、会社ロゴを求めている方は自社のロゴが作りやすくなるのではないかと思います。
ここでは先述した①~⑤のロゴ作り方について、過去にsynchlogoで制作した実例の制作過程を紹介しながら解説してまいります。
【会社名とリンクしたロゴマーク】
①会社名にある事物のモチーフで作られたロゴマーク
②会社名を連想させる事物のモチーフで作られロゴマーク
③会社名のネーミング由来から作られたロゴマーク
④会社名文字列のモチーフを使って作られロゴマーク
⑤会社名イニシャルのモチーフで作られたロゴマーク
■会社概要
クライアントは、新たな学校教材・サービスを開発し、日本中の学校へと届ける事業を行われているEDUSHIP(エデュシップ)株式会社さまです。日本の学校教育現場と向き合う企業として2020年10月に設立されました。
近年の日本の教育現場では、「子どもの自己肯定感の低下」が課題として浮き彫りになっていました。子ども達の平均的な学力自体は高いものの、生徒が同じことを同じタイミングでやるという画一的教育によって、1人1人の個性が尊重されづらくなっているというのが原因と考えられています。
その課題に対しサービスで未来を切り拓いていこうと「子どもたち一人一人が『新しい可能性!』を発見できる社会へ」のスローガンと共に、学校教材企業として90年の歴史を誇る教育同人社との”共創”により同社はスタートしました。
■会社名をそのままロゴマークにする理由と問題点
「EDUSHIP」は、“EDU”CATION(=教育)とSHIP(=船)、そして“SHIP”MENT(=発送)を組み合わせたもので、特に「SHIP」については「これからの時代に必要なあらゆる教育を届け、子どもたちが未来へ進んでいくための『船』のような存在でありたい」という想いが込められていました。
その想いを分かりやすく端的に表したロゴマークとするためには、「船」を連想させるモチーフを用いることは必須だろうとすぐに感じました。しかし、例えば船そのものをモチーフにするなどストレート過ぎる表現でデザインすると、同社が船舶や海運会社のように見え、誤解を招くことも懸念されました。
そこで「船」のモチーフだけを用いるのではなく、「教育」を「船」とうまく結びつけることで、EDUSHIPらしいロゴマークを作り上げていこうという目標をクライアントと共有し、検討を進めていきました。
■完成したロゴマーク
無限の可能性を秘めた大海原(=未来)へと、学校という名の船が力強く前進するさまを表現したロゴマークです。「!」にも見えるモチーフの集合にて花や花火を象った形を船上に作ることで、 「最高の教材サービスによって、子供たちが新たな可能性に気付き花開く」という意味も込めております。「船=学校」「海=教材」「花火=発見」のモチーフのどれもが主張し過ぎないように、またどれ一つが欠けても成り立たないデザインとしています。
■振り返り
企業名にある事物をモチーフにすると、その事物にデザインが引っ張られるおそれがあるため、それを払拭するデザインの工夫が必要になります。EDUSHIPでは、船舶や海運会社のロゴマークにも見えそうだという懸念がありましたが、もし船だけをモチーフにしたロゴマークにしていたら、その懸念通りのデザインになっていたかもしれません。
このように、会社名にある事物だけをモチーフにしてデザインするのではなく、その会社にまつわる何かを加えることで、ロゴマークにオリジナリティを与えることができるのです。
■会社概要
クライアントは、脱「転職のための転職」を掲げ、キャリア支援業とし転職を支援する事業を行う株式会社Ignite(イグナイト)さまです。転職をさせるための求人紹介業者としてではなく、「ありたい姿実現のための転職」を全力でお手伝いするアドバイザーとして事業を行っています。
近年の転職支援はエージェント都合によって進められることが非常に多く、転職希望者の本当に大切にしたいこと、価値観、人生の優先順位がはっきりしないまま、エージェントが求人を薦めるような状況は本来あってはならないことだと考えていました。そんな業界を変えたいという想いが起業する動機となり、2023年1月に同社は設立。キャリアを「複利」と捉え、たった一回の転職であっても絶対に妥協してはいけないという考えのもと、事業に取り組んでいる会社です。
■現象をモノで連想させる
Igniteは「発火する」「着火する」という意味の英語で、「キャリアを真剣に考えている本気の心に火を灯す」という想いからネーミングされました。このネーミング由来を伺い、転職希望者に対する向き合い方、転職に関する考え方が会社名に詰まっていると感じ、作成するロゴマークも会社名を連想させるものが相応しいと考えました。
しかし「発火」「着火」は現象であり事物でないため、そのままロゴのモチーフに使うことはできません。そこで「発火」「着火」という現象が直感的に連想できる事物を見つけ、それをモチーフにしてロゴをデザインしなければならないということになりました。
その結果、選んだモチーフは「火が付いたマッチ」でした。
マッチはそのものが発火するもので、何かに着火するものでもあります。また発火・着火するためには火薬部分を擦るというアクションが必要であり、Ignite社が行う事業がまさにこのアクションに当てはまる行為だという意味付けもすることができると考えました。
■完成したロゴマーク
迷っているが、キャリアを真剣に考えている本気の心に火を灯すさまを「マッチの火」で表現した新保rマークにしました。 生々しくない「火」の形としており、また円2つをベースに作った図形によってシンプルにデザインしています。分かりやすい表現で、印象に残りやすく覚えやすいデザインに仕上げました。
■振り返り
企業名自体は「発火」「着火」という意味ですが、分かりやすくキャッチ―なモチーフによって、「心に火を灯す」という本来の意味をロゴマークによって表現することができました。また、「火」といえば「怖い」「危ない」というイメージにも繋がりそうですが、シンプルなデザインによって、そういったネガティブなイメージを軽減させ、本当に伝えたいポジティブな意味だけが前面に出るヴィジュアルを作ることができたと思います。
このように会社名を連想させる事物を用いてシンボルマークをデザインすると、ロゴマーク全体で(シンボルマーク+社名で)、伝えたい意味がよりクリアに、より鮮明に伝えられるようになるのです。
■会社概要
クライアントは、商店を対象に、売場や商品のあり方、商品企画などの事業を行うinterval studio(インターバルスタジオ)さまです。個人のお店から、商店街、商業施設、大型店まで、どんな規模に対しても提案が行える“小売業の企画・デザイン集団”として始まりました。
なお、intervalは「間」という意味で、代表的な訳語としては、演劇など舞台における「幕間」が挙げられます。幕間には、「次はどんな展開になるだろう」といった期待感、ワクワク感を湧き上がらせる演出効果がありますが、同社も、お客様から「次はどんなクリエイティビティを発揮してくれるのだろう」などの期待を持ってもらいたいという願いがあり、「間」を英語にした「interval」を会社名に採用したそうです。
■状態をモノで連想させる
そんな想いが込められたい企業名でしたので、「間」を表現したデザインを同社のシンボルとすることが、今回のロゴマークデザインの最適解だと考えました。しかし「間」とは、空白という状態を表す言葉ですので、それ自体をデザインのモチーフにすることはできません。さらにその空白は、単に「何もない」という状態ではなく、「意味ある空白」という状態であることを感じさせる必要がありました。
この課題をクリアすべく検討を重ねた結果、「間」のネーミングの由来からその答えを得ることができました。演劇における「間」とは、出演しているどの役者さんが誰も喋ったり歌ったりしない状態、すなわち台詞がない状態ということです。演劇の台本では、台詞は「」(鉤括弧)の中に書かれていますが、そこから着想し、中に何も書かれていない鉤括弧で台詞がない状態=「間」が表現できるのではないかと考えました。
■完成したロゴマーク
「」(鉤括弧)をモチーフに用いたロゴマークで、クリエイティブによって「空白に新たな価値や物語を創る」という意味を込めました。 空白部分は、平面(六角形)・立体(キューブ)の形も意識しており、「空間づくり」という意味も込められております。
■振り返り
完成したロゴマークは、直接的に「間」を表すものではありませんが、用いたモチーフおよびそのヴィジュアルによって、間接的に社名とリンクさせることができました。
このように、会社名を考えることもクリエイティブな作業で、ロゴ同様の手順で作られていることから、会社名の中にモチーフにできそうな事物がなくとも、会社名の由来を見ればかなり高い確率でロゴを作るヒントが得られることができるのです。
■会社概要
Ekuippという社名は「equipment(機器・装置)」からきており、その由来からも分かるように、同社は主に製造業で使用されている計測器や測定器といった精密機器類を扱った事業を行っています。また、行っているのは製造や販売、リースといった事業ではなく、使われなくなった中古機器のシェアリングサービスという、これまであまり見られなかった事業でした。
使われなくなった中古機器を売りたい・手放したいと思っている企業と、一時的に利用したいと考えている企業をマッチングをさせれば、中古機器を事業者間で直接売買できるオンラインマーケットプレイスを作ることができるという着想から事業はスタート。それが上手く成立すれば、倉庫に眠っていた機器類に再び日の目を見る機会を与えることができ、良好な循環作用を持続的に起こすことができるではないかと考えたのでした。
■会社名に注目して欲しいからこそロゴマークに使う
同社の社名は、ブランディングを意識し、記憶に残りやすい特徴的な名称となるように、あえてequipmentのスペルにある「q」を「k」に変更して名付けられました。あえて正しくないスペルを企業名にしているのは、会社名の意味に注目して欲しいからです。
前節で代表例として挙げたユニクロも実は同様で、「ユニクロ」は最初に始めた時の店の名前、「unique clothing warehouse」(ユニークな衣料品の倉庫)の略語から作った造語で、正しいスペルは「UNICLO」なのです。それが「UNIQLO」になったのは、海外で社名を登記する際に、現地の担当者が間違って「UNIQLO」と書いてしまったからだそうなのですが、結果、「Q」のほうがデザインとしても格好いいのではないかと判断し、そのまま「UNIQLO」の表記を使い続けているそうです。(引用:ユニクロプレスリリース)
このユニクロの例と同様、会社名に注目して欲しいというEkuippの想いをさらに際立たせるため、ロゴマークにもあえて変更したスペルを使用した、「E」と「p」からなるデザインとすることにしたのです。
■完成したロゴマーク
Ekuippの名前を活かし、その図形は名前の最初の文字と最後の文字である「E」と「p」で作られています。2つの円が重なるような「シェア」を表す図形、ぐるっと回転したような「循環」を表す図形にも見えるよう構成しており、さらに全体が精密機器の回路を彷彿とさせるような形でデザインしています。さらに、マークの白抜き部分を注視すると「Sharing」のイニシャルである「S」が見えるようにもなっています。
■振り返り
会社のロゴマークは、シンボルマークと会社名のロゴタイプで構成されていますが、ロゴで企業のイメージを表したいのであれば、それを表す事物などをモチーフに用いてデザインすればよいでしょう。しかし、あえて会社名の文字列をモチーフに用いるのは、会社のイメージ以上にロゴで伝えたいこと、知ってもらいたいことがあるからなのです。
このように、会社名の文字列を用いてロゴマークをデザインするのは、会社をイメージさせるモチーフが見つからないからという消極的な理由によるものではなく、会社名がより注目されるようにしたいからという積極的な理由によるものなのです。
■会社概要
若松海運有限会社は、福岡県北九州市若松区にある船舶の管理と船員の求人を主に行う海運会社で、海運事業は資格や免状、コンプライアンス・ガバナンス管理が大変厳しく、対外的にクリアな会社イメージづくりが重視されます。また船員の就業は1隻にとどまらず、船舶を乗り換えることでハクが付くという特殊な業界文化があるため、船員にできるだけ長く働いてもらう環境づくりや社内イメージアップにも取り組もうとしていました。
今回のロゴ制作の目的はその2つのイメージアップで、社内・社外の両方を意識したデザインとする必要がありました。
■会社そのものを表すようなロゴにしたい
船舶を操り、物流の中核をなす事業であることから、風格ある会社のロゴにすると同時に、ファンネルマーク(船舶の煙突に描かれる海運会社ごとのマーク)として使われるのにも相応しい、海運会社らしい雰囲気を作る必要がありました。またそこに若松海運ならではの理念や仕事に対する姿勢などをどう盛り込んでいくかがデザインの方向性における課題でした。
社長さまに直接そのあたりをヒアリングしたところ、「一番大切にしているのは、会社と船員、また船員同士の信頼関係です」と仰っておられました。冒頭でも紹介しましたが、船員が船舶を乗り換える続けるため共に過ごす時間が短いのに加え、時には過酷で危険な労働環境となることも考えられることから、信頼関係以上に大切なものはないのかもしれません。
対外的にアピールでき、なおかつ社内の結束を高めるのに必要なことは何か。
ひとつの方向性として導き出されたのは、皆が若松海運を誇りに思うロゴ、すなわち会社そのものを表すようなロゴをつくる、ということでした。
■完成したロゴマーク
イニシャルである「W」をモチーフに、ロゴマークが会社そのものをを表すデザインです。 海を表す波形の抽象図形と組み合わせ、「W」を表す図形が海上を航行する船舶にも見えるようにデザインしました。
■振り返り
イニシャルは、会社そのものを表すモチーフとして用いられることが多く、若松海運では会社そのものを「船」に見立ることで、海運会社であることを表現しました。
このように会社の状態や特徴、これからの展望など、会社そのものをロゴマークで表したい時は、会社名のイニシャルをモチーフに用いてデザインする作り方が有効なのです。
5種類の企業ロゴマークの作り方実践例を紹介してきましたが、では一体どの作り方で作るのが一番よいのでしょうか?ここではその疑問に応えるべく、その5種類の作り方の客観的特徴を比較していきたいと思います。
①~⑤はいずれも企業名とリンクさせたデザインではありますが、実は「リンクの度合い」は作り方によって少しずつ異なるというのが注目すべき特徴です。
最もリンクの度合いが強いのは「①会社名にある事物のモチーフで作る」と「④会社名文字列のモチーフを使って作る」で、いずれも会社名そのものをロゴマーク化しているため、マークを見て企業名を思い浮かべやすいのが特徴です。ただし、デザインの洗練具合が甘いと、会社名をただロゴマークにしただけの、発想が安直なロゴと評価されてしまうため注意が必要です。
次にリンクの度合いが高いのは「②会社名を連想させる事物のモチーフで作る」と「⑤会社名イニシャルのモチーフで作る」で、いずれも間接的に会社名と関係してはいますが、①と⑤には劣るという位置付けです。なお、②は適切なモチーフを選定しないと、想定とは異なるものを連想させてしまうおそれがあり、⑤は他社の事例を調査しないと、用いるイニシャルが被ってしまうおそれがあるので注意が必要です。
最後に、「③会社名のネーミング由来から作る」ですが、リンクの度合いは5種の中で最も低く、作り方によっては、ロゴを見た人が企業名との関係に気付けないということもあるかもしれません。
このように、5種のロゴマークにおける会社名とのリンクの度合いは、①・④>②・⑤>③という順番になります。では、会社名とリンクしたロゴマークを作りたい場合、すべて①か④の作り方が良いかと言うと、そうとは限りません。
①や④はロゴマークに、会社名に入っている事物もしくは企業名の文字列をメインのモチーフに使う必要があるため、デザインの自由度が極めて小さく、会社のイメージに合ったデザインを作るのが非常に難しいのです。一方③は、会社名とのリンク度合いが最も低いですが、デザインの自由度は比較的高く、会社のイメージに合ったデザインにしやすい作り方でしょう。
つまり、会社名とのリンクの度合いは、デザインの自由度(会社のイメージ合ったデザインの作りやすさ)に反比例するため、ケースバイケースでどの作り方が適切か、バランスを考えながら決定することが重要なのです。
ここまでは会社名とリンクしたロゴマークの作り方を解説してきました。Best Japan Brands 2020 Rankingsに挙げられている、シンボルマークを有する39社の約半分の会社ロゴはその作り方でしたが、では残りの半分はどのような作り方がなされているのでしょうか。
実は、会社ロゴの王道の作り方としてもう一つ挙げられるのは、会社の経営理念とリンクさせて作るというやり方です。その証拠に、既にある程度の社会的ステータスを得た会社のロゴ制作エピソードを調べてみると、ロゴのデザインコンセプトが会社の経営理念から作られている記述が非常に多く見られるのです。
そこでここではそのもう一つの会社ロゴの作り方である「会社の経営理念とリンクさせたロゴマークの作り方」について解説していきたいと思います。
まず、そもそも会社の経営理念とはどんなものなのかについて解説していきたいと思います。
経営理念の多くは「Mission(ミッション)」「Vision(ヴィジョン)」「Value(バリュー)」の3つによって言語化されており、多くの企業が起業時に定めています。なおこの3つを日本語にすると、「果たすべき使命」「目指す将来像」「価値基準・行動指針」となります。
Mission(ミッション)
会社が社会に対してなすべきことを言語化したもので、「企業の使命」や「会社の目標」、あるいは「存在意義」と言った方が分かりやすいかもしれません。なぜ自社が世の中に存在するのか、社会に対してどのような価値を提供できるのかなど、会社が目指す社会について表しています。
Vision(ヴィジョン)
会社が目指す自社のあるべき姿について言語化したもので、「企業の理想像」「会社の方向性」と言った方が分かりやすいかもしれません。ミッションを実現するためにどんな会社ならなければならないのか、あるいは、ミッションを果たした結果、社会がどのような姿になることが理想なのかについて表しています。
Value(バリュー)
会社が行うべきことについて言語化したもので、「企業の価値観」「会社の価値基準」と言った方が分かりやすいかもしれません。ミッションを遂行するにあたって、どのような信念に基づき、どのように行動するか、未来を実現するための具体的な手段・方法について表しています。
結論から言うと、会社の経営理念とリンクさせてロゴマークを作るのは、その会社らしいロゴが手っ取り早く作れるからです。
会社ロゴを作る際、まずはじめに考えなければならないのは、まず「誰に、どんな印象を感じてもらいたいか」ということです。会社ロゴは会社の「顔」となるものですので、その顔を、誰に、どのような表情で見せるかというのはとても大切になります。またロゴは、会社を知った時最初に目にするものですので、ロゴデザインの印象がそのまま会社のイメージにつながることもしばしばあります。ですからロゴを見た人に誤解を与えないよう、また会社の良い印象を正確に伝えられるよう慎重にデザインする必要があります。そのためには、その会社がどういう会社で、どういう考えを持っているかなど、その会社らしさをロゴデザインで表現しなければなりません。
そこで登場するのが経営理念です。経営理念は会社ごとに必ずあり、さらにその会社らしさが凝縮されています。通常だとロゴ制作者は、クライアント会社のことをゼロから調査しなければならないのですが、異なる業界のこと、慣れない業種のことを理解するにはとても時間と労力がかかります。しかし経営理念は会社のことを一言で表しているものですので、ロゴマークデザインの由来とするにはうってつけな材料だという訳です。
それでは会社のロゴにおける、経営理念を由来としたロゴマークデザインとは実際どのようなものなのか、いくつか事例をご紹介したいと思います。
会社のロゴマークは、差別化したいがために他社と被らないようオリジナリティを追求してデザインしようとしますが、なぜか経営理念は他社と似てしまっていることが多々あります。なぜそのようなことが起きるかというと、経営理念は古来から共有されてきた倫理的価値観や、時代背景から導き出されたものを起源として定められていることが多いからです。
しかし経営理念が被ることは決してネガティブなことではなく、むしろ会社のスケールを大きく感じさせるブランディング戦略の一環であるとも考えられます。ここではまず、そんな定番の経営理念を由来とした会社ロゴの例を見ていきたいと思います。
「三方良し」
「三方良し」は、日本の伝統的な価値観の一つで、行動や決定が関係するすべての者にとって良い結果をもたらすようにするという意味を持ちます。この概念は日本の倫理や道徳の基礎となる思想であり、様々な社会的および人間関係において重要な役割を果たしてきました。
「三方良し」で有名なのは、「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」という、その昔近江商人のあいだで使われていた商売の理念ですが、これは、売り手の都合だけで商売を行うのではなく、買い手も満足でき、さらにはその商売によって地域社会の発展や福利の増進に貢献できるのがよい商売である、というものです。
現代でもこれを経営理念に掲げている会社は多く、有名なところでは伊藤忠グループは経営理念をそのまま「三方良し」としており、「自社の利益だけでなく、取引先、株主、社員をはじめ周囲の様々なステークホルダーの期待と信頼に応え、その結果、社会課題の解決に貢献したいという願い。『三方よし』は、世の中に善き循環を生み出し、持続可能な社会に貢献する伊藤忠の目指す商いの心です。」と説明しています。
また自社向けにアレンジしたもので有名なのは、本田技研工業株式会社が掲げている「創る喜び」「売る喜び」「買う喜び」という理念で、同社の創業者である本田宗一郎が残した言葉だと言われています。
それでは「三方良し」を由来とした会社ロゴの事例を紹介していきましょう。
◆株式会社D2C R
「三方良し」(買手良し、売手良し、世間良し)という考え方を基に、D2C Rでは、「For You&I For Industry For Society」の4つの「for」に貢献することを企業理念としており、それらを4つの三角形で表現しております。
引用:コーポレートロゴ変更のお知らせ(株式会社D2C R)
◆武蔵コーポレーション株式会社
すべての人が、幸せに丸くおさまる「三方よし」
引用:ロゴマークへの想い(武蔵コーポレーション株式会社)
日本が古くから大切にしている日本的経営の理念に基づいています。
お客様と武蔵コーポレーションと社員・お取引先様が、手を取って結ばれて、1つの円をつくる。
円は輪であり、和でもある。
武蔵コーポレーションの事業を通して、すべての人たちが幸せに丸くおさまることを意味しています。
◆店舗情報サービス株式会社
店舗は【地域】【貸主】【テナント企業】の三者に支えられていることを表現しており、
引用:ロゴマークの由来(店舗情報サービス株式会社)
当社は「地域、貸主、テナント企業、三方よし」の実現を目指しております。
「イノベーション」
「イノベーション」とは「革新」という意味だけではなく、革新的な物事をすべてを指します。ビジネスの世界では、技術の変革、市場の開拓、資源の発見、製品・技術の開発などのことを表します。また世の中を変えるという意味で、産業構造の刷新や新しい流行や文化形成などのこともイノベーションと呼ばれることがあります。たとえばスマートフォンの普及やSNSの流行などがそれにあたるでしょう。
また、イノベーションは社会や業界といった外側に対してだけでなく、内側、すなわち自社のあるべき姿勢、自社に対する考え方として使われることもあります。「常に変革の意識を」や「働き方改革」などがそれに該当するでしょう。
近年、イノベーションを経営理念に掲げるところは多く、有名なところでは楽天グループ株式会社では「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」を、Sansan株式会社では「出会いからイノベーションを生み出す」をミッションに掲げています。
それでは「イノベーション」を由来とした会社ロゴの事例を紹介していきましょう。
◆テルモ株式会社
左から右に向けて伸びるラインは、医療現場に新しい価値を提供するための「イノベーションへの挑戦」を象徴しています。
引用:コーポレートロゴを一新(テルモ株式会社)
赤い色は、患者さんの生命と、テルモアソシエイトの熱意を意味します。
ラインのフォルム(形)は、地球の弧のように描き、スピードをもってグローバルな展開を進めていくことを示しています。
緑のTERUMOの文字は、これまでテルモが築き上げ、今後も引き継いでいく価値を表します。
◆株式会社AskAt
AskAtの頭文字のAを形どった赤いロゴは、情熱を持って空に向かって飛躍するという意味を表しています。つまり、「社会に貢献する医療イノベーションを実現する」という我々の使命を表現しています。
引用:社名について(株式会社AskAt)
◆吉積情報株式会社
心理的安全性と多様性が生み出す環境で、イノベーションが生まれる。
引用:吉積情報の新しいロゴに込められた想いとは(吉積情報株式会社)
そのイノベーションで「働き方改革を追求」し、「関係するすべての人と幸せになる」ことを意味しています。
シンボルマークのデザインは、吉積情報自身の姿であると同時に、私たちが関係するお客様、パートナーの皆様の未来の姿でもあります。
「新たな価値の創造」
「新たな価値の創造」とは、新たな価値あるモノやサービスを提供することや、会社が行う事業によって新たな価値観を作り出すことを指します。これには、そのジャンルにおけるリーディングカンパニーとして、業界や社会のトップに立つという意味も込められており、時代の状況や社会の変化を察知し、先取りして事業を行うという気持ちの表れだと考えてよいでしょう。
また新たな価値の創造とは、単なるモノやサービスの提供に留まらず、社会の期待に応じて進化し、継続的な改善を追求するプロセスでもあります。このプロセスには、創造的な発想、効果的なリーダーシップ、そしてリスクを冒す決断力が欠かせません。新たな価値を生み出すためには、その業界や社会の状況を正確に分析し、持続可能なビジネスモデルを生み出すことが不可欠です。さらに、顧客の声に耳を傾け、社会のニーズにも敏感に対応する姿勢も欠かせないでしょう。そのような努力が実を結び、新たな価値を生み出すことで、企業は続的な成功を収めることができるのだと思います。
経営理念に新たな価値創造を掲げる会社を紹介すると、住友商事株式会社では「私たちは、常に変化を先取りして新たな価値を創造し、広く社会に貢献するグローバルな企業グループを目指します。」を目指すべき企業像として、コニカミノルタ株式会社では「『新しい価値の創造』 は、2003年のコニカミノルタ発足から不変の、そしてこれからもずっと変わることのない経営理念です。お客さまのために、そして、その先にいるあらゆる人々のために、私たちはさまざまなカタチで『新しい価値』を創り出し、届けていくことで、人と社会をいつまでも支えていきます。」を経営理念としています。
それでは「新たな価値の創造」を由来とした会社ロゴの事例を紹介していきましょう。
◆都築電気株式会社
経営理念にあわせて、「TSUZUKI」のロゴマークも刷新し、従来よりもシャープな書体と明るい色に、より軽やかに先進的なチャレンジを楽しみたいという思いを込めております。3つの四角形は、お客さま、ビジネスパートナーさま、TSUZUKIを表しています。この関係をこれからも大切にし、様々なパートナーの皆さまと協働し、お客さまの新たな価値創造にむけて挑戦していきます。
引用:新経営理念と新タグライン・新ロゴマークを発表(都築電気株式会社)
◆株式会社カナエ
新たな企業理念をベースに、企業ロゴについても刷新することに致しました。企業ロゴについては、下記3つの意味合いを持たせることにしました。
引用:企業ロゴ刷新及び企業理念改定について(株式会社カナエ)
・カナエが『包装』の企業であること
・「社員」「ステークホルダー」「社会すべて」の『幸せ』
・新たな価値の『創造』
新しい企業理念と、企業ロゴのもと、カナエは「包むで、未来を創る」をコーポレートメッセージとし、社員一丸となって、より良い会社にしていきます。
◆ネクサスグループ
ネクサスのロゴマークは「NEXUS(絆)」のNをモチーフとして、人と人が重なり合っています。私たちは皆様を支える存在であり、その皆様に支えられている存在でもあります。重なりあうことで完成し、新たな価値を創造していく。ロゴマークにはそんな想いが込められています。
引用:ロゴマークについて(ネクサスグループ)
前章ではロゴのモチーフについて注目いたしましたが、ここでは実際に会社ロゴをデザインする際の具体的なテクニックを紹介したいと思います。
会社ロゴはこれまで様々なデザインが生み出されてきました。会社の理念やメッセージなどを込めながら作られることから、そのデザインにはそれぞれ固有の特徴や意匠が備わっており、それが「オリジナリティ」となって唯一無二の存在となっていくのです。
しかし長い歴史を経て、会社ロゴは数えきれないほど生み出されてきたことから、オリジナリティを確立するのは非常に難しくなりつつあります。どこかで見たことあるようなデザイン、すなわち「既視感」がロゴには付きまとうようになってきたのです。
その理由として、作図パターンが出尽くしてしまったことが挙げられます。ロゴとは図形であり、その図形をいかにユニークに、個性的に描いていくか、常にデザイナーは新しい図形を生み出そうと苦心してきました。しかし、デザイナーの佐野研二郎氏がデザインした2020年東京オリンピックのロゴのように、デザイナーが意図していなくとも「似ている」と感じられてしまう出来上がりになってしまうことは少なくありません。メディアに取り上げられ、広く知られるところとなったこのロゴ以外にも、下記のように「似ている」と感じられるロゴはたくさんあるのです。
パソコンや描画ソフトの発達により表現の幅は広がり続けていますが、長い時間をかけて繰り返し練り上げられたものは定番のデザイン手法として確立されており、一般の方にとっては専門的な特殊テクニックのように見える手法も、デザイナーにとっては確実なデザインクオリティが得られるテクニックとして、今なお広く使われ続けています。
そこでここでは、会社ロゴがかっこよく見えるようになるデザインテクニックをいくつか紹介・解説していきたいと思います。
また各テクニックをロゴデザイン実例とともにご覧頂くことで、「あのロゴはそうやって作られていたんだ!」という発見もきっと得られることでしょう
エッジを利かせたシャープな形にすると、スピード感や未来感のあるかっこよさが生まれてきます。対称的な形にも、動きのある形にも合うため、色んなバリエーションがデザインができます。
直線や放物線、円や多角形などの図形を使い、規則性のある形にすると整ったかっこよさになります。その形にした意味や理由が伴うと、より洗練させたロゴへ仕上がっていきます。
陰影をつけたり、遠近感作ったりすることで、立体感や空間を感じさせる印象的なかっこよさができます。リアルな図形に近づけたり、あえて現実にはない形にしたりすると、特徴的な雰囲気が醸し出てくるでしょう。
対比を効果的に使った形・色でデザインすると、メリハリの利いた、緊張感のあるかっこいいデザインが出来上がります。様々なデザインに取り入れることができる、使いやすいテクニックではないかと思います。
徐々に変化する色を効果的に使うことで、エモーショナルなかっこよさを演出することができます。複数の色が使えるため、配色の組み合わせは無限に考えられるでしょう。また色は人の記憶に残りやすいため、オリジナルなかっこよさが作りやすいテクニックです。
ここまでは主に会社ロゴの「形」に関することを解説してまいりましたが、会社ロゴをデザインする上で忘れてはならないのが「色」についてです。赤のロゴの会社といえばコカコーラやユニクロ、緑のロゴの会社といえばスターバックスやLINEが思い浮かぶのではないでしょうか。時に色は形以上にイメージに残りやすく、視覚の8割は「色」が占めるとも言われています。
そこで、ここでは会社ロゴを作る上で大切な「色」について、その傾向および選定のポイントについて解説していきたいと思います。この章を読めばきっとロゴの色決定に迷うことも少なくなるでしょう。
まずは会社ロゴにおける色の傾向についてです。よく目にする著名な会社のロゴを俯瞰・分析することで、どういった色がどのように使われているかを見ていきたいと思います。
◆会社ロゴは「赤」と「青」がスタンダードカラー
2章で紹介した上記「Best Japan Brands 2025 Rankings」に挙げられたロゴの色を見てみると、以下のような傾向が見られました。
赤系統主体 33社
青系統主体 29社
緑系統主体 9社
無彩色系統 13社
その他・複数色 16社
最も多かったのが赤系統主体の会社ロゴ、次いで青系統主体が多く見られました。緑や無彩色も一定数見られましたが、赤や青に比べると圧倒的に少ない数となっています。こうして見ると赤の会社ロゴと青の会社ロゴで全体の約6割を占めていることが分かります。
ここで会社ロゴの色に関する特徴的なエピソードをひとつ紹介したいと思います。赤い「スリーダイヤ」のロゴで有名な三菱グループですが、実は以前は現行の赤のロゴに加え、青のロゴも使われていたダブルスタンダードの時代があるのです。
現行の赤いスリーダイヤのロゴの歴史は明治の初期まで遡ります。創業者である岩崎弥太郎が、三菱創業時の九十九商会が船旗号として採用した三角菱がスリーダイヤの原型です。その後時代を経て1985年、企業イメージの向上を目的に三菱はCI(コーポレート・アイデンティティ)活動を実施しますが、その際当時既に知名度の高かったスリーダイヤのロゴは海外向けに使うことが定められ、日本国内用には青の「MITSUBISHI」のロゴ(ロゴタイプ)が作られました。その後海外用の赤いスリーダイヤのロゴ、国内用の青のMITSUBISHIのロゴのダブルスタンダードはしばらく続きますが、2014年に海外・国内での使い分けを止め、赤いスリーダイヤのロゴに統一されることになったのです。(参考文献:三菱自動車、三菱電機)
このように、日本のトップ企業が選択したロゴの色もやはり「赤」と「青」で、会社ロゴと言えばこの2色がスタンダードカラーとして考えられていることが窺えます。
◆同業だと同じ色を使おうとしない
同じ業種、同程度の規模・知名度の会社であるほど、会社ロゴを同じ色にはしたがらないものです。「〇〇の色の会社といえば」といったイメージの話ももちろんありますが、同業のロゴが同じ色だと紛らわしくという理由もあるからでしょう。
その顕著の例としてまず挙げられるのが航空業界の会社ロゴです。大手2社である日本航空(JAL)は赤、全日空(ANA)は青という色のイメージが定着していると思いますが、その他の航空会社のロゴも実は色が被らないようにデザインされています。国内線で一定の知名度がある航空会社8社のロゴの色を見てみましょう。
・日本航空(赤)
・全日空(青)
・スターフライヤー(黒 or 白)
・スカイマーク(紺色+黄)
・AIR DO(水色+黄)
・ソラシドエア(緑)
・ピーチ(赤紫)
・ジェットスター(オレンジ)
このように、前節で解説したスタンダードカラーである赤と青は大手2社が使っており、第3極と呼ばれるスカイマーク・AIR DOは2色使い、ソラシドエアとスターフライヤーは単色だがやはり大手2社とは異なる色を採用しています。またLCCと呼ばれる格安航空会であるピーチ、ジェットスターも同様に異なる色としていることが分かると思います。
航空会社の場合、空港という同じ場所でロゴが掲示されるシーンも多くあることから、同じ色をより採用したがらない傾向が強いものと思われます。同じ場所で同業種のロゴがある場合など、一目で認識できる「分かりやすさ」がデザイン上最優先となる場合、色は同じにしない傾向が強くなっていくのです。
またこれと同様な例として挙げられるのが銀行です。メガバンク3社のロゴの色を見てみると、スタンダードカラーある赤は三菱UFJ銀行、青はみずほ銀行、そしてそのどちらでもない緑は三井住友銀行が採用しています。銀行も航空会社同様、ATMなど同じ場所でロゴが掲示されるシーンが多く、やはりできるだけ同じ色を採用したがらない傾向があると思われます。
◆業種によっては色が似通ってくるケースもある
しかし、同じ色の会社ロゴばかり見られる業種も少ないながらあります。たとえばsynchlogoが制作を担当した薪ストーブメーカーの会社ロゴでは、同業界の競合会社ロゴを調査した結果、下の一覧のようにそのほとんどが黒・オレンジ・赤の単色もしくは複合色でロゴが作られていることが分かりました。火を扱うこと、そして火に関する商品提供がメインであることからそういった色の傾向になるのでしょう。
この例より、事業の内容や会社としてアピールしたいポイントが業界内で差別化することが難しく、提供する商品やサービスの内容や質で勝負せざるを得ない場合においては、会社ロゴの色が似通ってくる場合もあることが分かると思います。水を扱うことがメインの業界なら水色や青の会社ロゴが多いですし、植物を扱うことがメインの業界なら緑や黄緑の会社ロゴが多いことは容易に想像がつくと思います。
こういった場合、あえて通例となっている色を使わず、そこで差別化を図る会社ロゴの作り方ももちろんあります。しかしそのような会社ロゴの作り方をすると、業界らしくない、誤解を感じさせてしまうなどのリスクを背負ってしまうことも大いに考えられます。その時は色で違いを作ろうとせず、前章まで解説した「形」の部分で特徴的なデザインを目指すようにした方がよいでしょう。
次は、会社ロゴの色を選ぶポイントについてです。前節の分析結果を踏まえつつ、実際に色の選ぶ時に気を付けるべきことや、参考にした方がよい考え方などを紹介していきたいと思います。基本的に色は好きなものを選んでも良いと思いますが、これを読んでおくとより効果的な色選定を行うことができると思います。
◆使用してはならない色というのがある
色については、ロゴデザインの世界では知られていても、一般の方はなかなか知らない「使用してはいけない色」というものが実は存在します。
その有名な例をひとつご紹介いたしましょう。医療関係の会社ロゴや、安全・防護に関係する会社ロゴでは「十字」マークをモチーフに用いたデザインが多く見られまると思います。しかしこの十字マークを赤くして使用する「赤十字」については、世界最大の人道支援のNGOである赤十字に関係のある活動にしか使用を許されていないというのは、意外と知られていないのではないでしょうか。
残念ながら日本ではこの赤十字マークが色々なところで使用されているのを見かけますが、実はこの白地に赤い十字のマークは、世界最大の人道支援のNGOである赤十字に関係のある活動にしか使用を許されていないマークなのです。これはジュネーブ条約や日本国内では『赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律』、『商標法』などの国内法によって厳密に定められています。ですから、このマークが薬箱や赤十字以外の病院やクリニックの看板、あるいはレスキュー隊のユニフォームなどに描かれていれば、それらは全てジュネーブ条約違反なのです。
引用:日本赤十字社
また数は少ないながら、日本でも「色彩商標(色彩のみからなる商標)」と呼ばれる商標が存在します。以前の日本の商標法では文字、図形、文字と図形の組み合わせ、立体物しか商標と認められませんでしたが、2015年の法改正によって、音、色等も登録対象になったのです。著名な登録例を紹介すると、第5933289号のセブンイレブンと登録番号第5930334号のトンボ鉛筆の商標です。登録前から非常に知られているカラーパターンで、その認知度の高さも登録に寄与したのではないかと言われています。また、この配色を他社がロゴに使うことは当然できません。
しかしここで挙げた例のように、見慣れた色、どこかで見たことのある色などを会社ロゴに使ってしまうことは実は少なくありません。風格や権威性を帯びた色とはそういったものですから、無意識に選んでしまうこともあるのです。しかし法的に認められていない配色はトラブルを招く原因にもなることから、自社のカンパニーカラーとなる会社ロゴの色は慎重に検討するようにしましょう。
◆関係性があることを示したい時は同じ色を使う
一方例外的に他社と同じ色を積極的に用いることがあります。それは両社がグループ会社や関連会社である時です。異なる会社でも両社に何らかの関係性があることを示すには、むしろ積極的に同じ色を会社ロゴに使っていくべきでしょう。たとえその会社のロゴが独自の個性的な形をしていたとしても、色を同じにしていれば、何らかの関係がありそうなことに気付いてくれると思います。
その例として、東京ガスグループの会社を見てみましょう。下に示した5社のロゴのデザインは全く異なるものですが、赤と青の2色を統一しただけで、一目でグループ会社であることが感じられるようになっています。
このようにロゴの形は異なっていても、配色を同じにすることで同じグループの会社であることが示せるようになります。同じグループの会社でも、事業領域が異なる場合などはこのやり方が有効にはたらくでしょう。
◆ロゴの形は変えず色を変えて関係性を示すこともある
上記とは逆に、色はそれぞれの会社で異なるけれど、ロゴの形を同じにしてグループ会社や関連会社などの関係性を示す場合もあります。例として挙げられるのはJRグループやNEXCO各社です。これらの会社ロゴは管轄するエリアによって色が変えられており、それぞれのエリアの特徴などに由来した色でデザインされています。それではNEXCO3社のロゴの色の由来を見てみましょう。
・NEXCO東日本(ネクスコ・グリーン):東日本・北日本の安息を感じさせる自然をイメージした、深みと明るさのある緑色。
・NEXCO中日本(ネクスコ・オレンジ):中部日本エリアの活発なにぎわいをイメージした、力強くいきいきとしたオレンジ色。
・NEXCO西日本(ネクスコ・ブルー):西日本・南日本の海と空の明るさをイメージした、鮮やかで清潔感のある青色。
このようにロゴの形は同じでも、全く似ていない色とすることで同じグループでも会社は異なることが示せるようになります。会社ロゴにファミリー感を出したい時に有効にはたらく手法です。
ここまでは一般的な会社ロゴの作り方について解説してまいりましたが、会社ロゴを作るためにはブランディングを意識して制作していく必要があります。会社ロゴに必要な「信頼感」とは見た目の良さのことだけではなく、会社として戦略的にどうイメージを社会に伝えていくか、どのように会社を見てもらえるようにするかなど、見た目の奥にあるブランド感も大切になってくると思います。しかしそのブランド感は簡単に作り出せるものではなく、ロゴの制作プロセスでどのようなことを行っていくかに懸かっているのです。
そこでここでは、本当に信頼感ある会社ロゴを作るための、ブランディングを意識したロゴ制作過程とはどのようなものなのかについて紹介したいと思います。以下、その実際の制作過程について順を追って解説してまいります。
STEP1|ブランド調査
会社ロゴではまず前提として、そのロゴを発表することでどのように世の中に影響を与えるか、どのようなはたらきをするかなどを事前に予測、コントロールしながら作ることがあります。その主な方法として、ロゴの検討を行う前にブランディング戦略(CI:Corporate Identity)の立案を行うことが挙げられます。
CIとは、会社の理念や姿勢を体系的に整理し、統一した会社イメージの構築を目指す概念のことで、ヴィジュアルのイメージの統一(VI:Visual Identity)、理念の統一(MI:Mind Identitity)、指針の統一(BI:Behavior identity)の3つの柱で成り立っています。このうち会社ロゴはVIの中に位置付けられ、デザインの方向性やどんなモチーフを用いてロゴデザインするかなども、VIの考え方に基づいて設定されていくことになります。
ブランディング戦略ではまず市場におけるブランドの位置を把握するための調査を行います。対象となる市場と顧客を調査するのですが、必要に応じて消費者行動モデルのフレームワークを活用したアンケートなどを実施します。市場でのポジショニングや顧客のニーズを確認することで、競争相手や顧客のニーズなど、ブランディングに必要な課題を知ることができるようになります。
STEP2|MIの設計
会社ロゴを作る上で欠かせないのがこのMIです。理念の統一を図ると、会社の価値観とはどういうものかを方向付けることができるようになります。MIではミッション(果たすべき使命)、ヴィジョン(実現したい未来)、バリュー(提供できる価値)、スピリット(大切にする精神)、スローガン(合い言葉)を定めることが多く、近年会社紹介としてコーポレートサイト等に掲げていることもよくあります。なおこれらは経営者だけで考え、決定すべきではではなく、社員やスタッフ、関係者などと一緒に設計していかなければ意思統一されたものを定めることはできないでしょう。
STEP3|市場・競合相手のVI調査
会社が属する市場や同じ業界、直接の競合となる相手のVI調査を行います。掲げているデザインコンセプトやコーポレートカラー、またヴィジュアルのベースにしているモチーフやキャラクターなど、ヴィジュアルに関するものをあらゆる視点から調査することが重要です。
この調査の目的は、明快な差別化をどう行うかを知るためであり、その結果によってはデザインの方向性がこの時点である程度絞られることもあります。
STEP4|MIのヴィジュアル化方針検討
上記のVI調査を踏まえた上で、自社のMIをどうヴィジュアル化していくかを検討します。MIで言語化された内容が多い時は、その全てをヴィジュアル化することは難しいため、その取捨選択もこの工程で行わなければなりません。社会や顧客に対して伝えたいメッセージや、会社のシンボルとすべきものは何か、どのような雰囲気でイメージを構築していくかなど、吟味を重ねて絞り込む必要があります。
また、ここで定めたヴィジュアル化方針は「トンマナ(トーン&マナー)」となり、ブランドイメージやブランドカラーとして、ロゴだけでなくVIに基づき作られる様々な制作物にも展開されていきます。よってVIのトータリティを損なわないためにも、ロゴも例外なくこのトンマナは必ず守るべきルールだと認識しておく必要があります。
STEP5|ラフ案の作成
MIのヴィジュアル化方針をもとに、いよいよロゴのラフ案を作っていきます。ラフ案作成で大切なことは、様々な角度から、あり得るデザインの可能性をできるだけ多く探ることです。イラスト作成ソフトでも、ペンタブを使ったスケッチでも、紙に手描きでも、方法は制作者によって異なりますが、限られた時間でできるだけたくさんの案を作り、どの方向性のデザインが求めている会社ロゴに相応しいか考えていきます。
またここまでの工程と同様に、ラフ案をつくる上でも企業とデザイナーがコミュニケーションを取りながら進めることが重要です。完成形に近いデザイン提案をジャッジするのではなく、ラフ案の段階でどんなデザインの可能性があり得るかを共有しておくことで、より密度の濃い検討ができるとともに、デザイナーが思いつかないような有益なアイデアが生まれることも少なくありません。クリエイティブな工程に進むほどデザイナーに任せる部分はおのずと増えてきますが、会社が積極的に検討に関わることで、より上質なロゴの完成に近づいていくでしょう。
STEP6|デザイン提案の作成
ラフ案の中から可能性を感じる数案を選定し、提案できるよう仕上げていく工程です。まずラフ案から提案候補をどのように選ぶかについてですが、できるだけデザインの方向性が際立っている、異なる方向性のものを選びます。会社ロゴは初回のデザイン提案で決定するようなことはまずなく、何度か提案を重ねることが当たり前です。ですので初回の提案では、どのデザインの方向性で進めるかを決めるくらいの意識で提案されることが通例とされています。
また、デザイナー一推しのデザインが良いデザインであるとも限りません。そのデザインのポイントが、デザイナーの主観的なものであったなどということも少なくありません。会社に相応しいロゴデザインを客観的に判断するというのはプロのデザイナーでも難しく、そのためあらゆる方向性のデザインを、あらゆる価値観を持った人達によって比較した上で決めていきます。
STEP7|提案・プレゼンテーション
作成したデザイン提案をプレゼンテーションし、デザイン案について意見や感想を交換する工程です。会社ロゴの場合、デザインの最終決定者は経営のトップ、もしくは役員会など複数の人からなる経営陣であるため、どのような提案内容にするかはクライアント会社の担当者と協議しながら決定します。
プレゼンテーションは、デザイナーがデザインの最終決定者に直接行うこともあれば、提案資料を送付し、クライアント会社の担当者が行うこともあります。またプレゼンテーションの方法は、紙の資料を用いるやり方、PCを使ったスライド形式で行うやり方など様々です。クライアント会社に合ったやり方を考え、最適な方法で行うことが求められます。
STEP8|ブラッシュアップ
この工程では、プレゼンテーションで得られた意見や感想をもとに、選定されたデザイン案のブラッシュアップを行っていきます。プレゼンテーションでは1つの案のみ選定されることが望ましいですが、引き続き比較検討する目的で複数案選定されることもあります。その際は各案ごとに意見や感想をもらっておき、それぞれに合った方向で修正・調整を行うようにするのが一般的です。
具体的なブラッシュアップの例としては、形の調整や配色バランスの見直し、またデザイン提案作成時に詰めなかったディテールもここで検討します。ブラッシュアップ後のロゴは即決定案となりますので、基本的にはそのまま世に出ても問題ないよう完成形を目指して制作が行われます。
またVIで作る他の制作物との調整もここで行います。ロゴは、ほとんどの制作物で使われるため、サイズやプロポーション、視認性・使い勝手など、様々なシチュエーションの想定・検証を行うことで、よりトータリティのあるVIへと仕上げることができます。制作物ごとにデザイナー・制作者が異なる場合は、よりしっかりとそれを行う必要があり、密なコミュニケーションを要することになります。
STEP9|完成・納品
プレゼンテーションとブラッシュアップの工程を何度か繰り返し、クライアント会社の承認が得られると完成となります。このトライ&エラーの回数は案件の内容や性格にもよりますが、一方だけでなく、クライアント会社とデザイナー双方が納得できる結果になって、はじめてその企業に相応しいロゴの完成となります。双方が納得できるデザインが出来上がるまでにはかなりの時間と労力を要しますが、ロゴはVIで作成する制作物の中で最も長く使うものですので、根気強く検討し続けることが求められます。
そして制作したロゴの納品となりますが、現在ほとんどの場合、ロゴはデータで納品されます。そのデータは用途を想定し、どのような用途でも対応できるよう、様々なファイル形式に変換し準備することが求められます。特に近年はWebやSNSが手軽に扱えるようになったことから、印刷物用のデータだけでなく、それらに適した画像系のデータを複数納品することも珍しくありません。
STEP10|商標出願・登録
ロゴは、会社がその権利を有する知的財産の代表的なものですので、完成したロゴを商標出願・登録するケースも少なくありません。ロゴを法的に守ることで、安心して使用することでき、無断で他人に使用されることが阻止できるようになります。社会的影響の大きい会社ほど商標の出願・登録をしておく必要性は高く、ロゴ制作の着手前から出願・登録することが決まっている場合は、それを見越した制作を行う場合もあります。
なお商標の出願・登録に関する検討・手続きには専門的な知識・ノウハウが必要で、弁理士と呼ばれる有資格者が行うことが一般的です。ロゴ制作者は適宜ロゴ制作での諸情報を弁理士に提供することが行われます。
会社ロゴのほとんどは会社設立と同時に作られますが、その時作ったロゴをずっと使い続けるかどうかは会社の考え方次第です。一般的に会社ロゴは創業時の記憶・起業のシンボルという特別な存在であるため、リニューアルすることに躊躇いを感じてしまうものです。そうしてなかなか変えられずにいると、起業時のロゴのイメージが世の中に定着してしまい、さらにリニューアルしづらくなってしまいます。
もちろん長く使うことができる「永続性」を備えたロゴは、ロゴデザインとして評価されるものです。しかし同じロゴを使い続けるのが会社にとって良いことだと一概に言い切れるものでもありません。
そこでここでは、ロゴのリニューアルについて、世の中の会社はどのように考え、どのように対応しているかを俯瞰していきたいと思います。それによって自社の会社ロゴを、時間の経過とともにどのように扱うべきかきっとヒントが得られるでしょう。
まずは創業から長い年月が経った老舗企業の会社ロゴを見てまいりましょう。「老舗」の定義は特にありませんが、ここでは創業から100年以上続いている日本の企業を取り上げたいと思います。
ひとつめの例として挙げるのは大手百貨店グループの髙島屋のロゴ、通称「マルタカマーク」です。
マルタカマークは、江戸時代後期の天保2(1831)年に京都で古着木綿商を創業した際に作られたもので、現在でも同企業のシンボルとしてそのまま使われています。デザインは左右対称なのが特徴で、旗などに描いた時、表から見ても裏から見ても同じものとして見えるように意図されたデザインだと言われています。
ちなみにこのマルタカマークは明治37(1904)年に商標登録もされています。なお大手百貨店は比較的創業当時のロゴをそのまま使う傾向があり、そごうや松阪屋なども同じ例として挙げられます。
ふたつめに化学メーカーの花王のロゴを取り上げましょう。こちらは髙島屋のように創業当時のロゴをそのまま使っているのではなく、何度かデザインをリニューアルしている例になります。
花王の創業は1887年、創業者・長瀬富郎が洋小間物商・長瀬商店を設立したのがはじまりです。最初にロゴが作られたのは1890年で、長瀬商店で扱っていた輸入品の鉛筆に月と星のマークがあり、これをヒントに富郎自身がロゴを考案し、「美と清浄を象徴したマーク」としたそうです。
しかしこの創業時のロゴは50年後に大きくデザインが一新されます。右向きだった月の顔が左向きに変わり、ヴィジュアルもシンプルになりました。顔の向きが変わったのは、これから満ちていく左向きの月の方が縁起がよいという考えからだそうです。そしてその後も5年から20年ほどのスパンでロゴのデザインは変更されていきます。現在使われているおなじみの月のマークは1985年に登場し、以降マークは変えられずに使われています(ロゴタイプはその後も変更がありました)。
このように、創業当時の会社ロゴをそのまま使う老舗企業もあれば、頻繁にデザインをリニューアルし続けてきた老舗企業もあり、一概にどちらが良いという訳ではないようです。しかし一つ言えるのは、歴史や伝統を重んじることをアピールしたい企業は創業当時のロゴをそのまま長く使い、時代や流行に敏感であることや、企業の中で何かしらの変革が起こったことをアピールしたい企業は、その時代のトレンドを見ながらデザインを変えているのであろうと推察されます。百貨店という業種は歴史の重みが企業として大きな付加価値になりますし、化学メーカーは現代の技術や流行を追わなければならない業種です。このように業種によって会社ロゴのあり方に対するスタンスは異なってくるものと考えられます。
冒頭でも述べましたが、会社ロゴは創業時の記憶・起業のシンボルであるため簡単にリニューアルできるものではありません。また会社ロゴは広告・宣伝やビジネスツールをはじめ様々なところで使われており、いざリニューアルするとなると、ロゴを使っているそれら全てのものを見直さなければならず、大変な作業が発生することを覚悟しなければなりません。したがって何らかの目的やきっかけがなければ、会社ロゴのリニューアルなど普通は行わないものです。
そこでここでは会社ロゴをリニューアルした企業を対象に、どのような目的やきっかけでリニューアルを行ったか、その事例を調べていきたいと思います。
①社名変更に伴うリニューアル
まずご紹介する事例は、2024年10月に社名変更が予定されているカナデビア株式会社(旧社名:日立造船株式会社)です。同社は既に日立グループからは離れ、造船事業からも撤退していたことから、社名と事業が乖離した状態が続いていました。ちなみに新社名のKanadevia(カナデビア)は、“奏でる”(日本語)と “Via” (Way/道・方法という意味のラテン語)による造語とされています。
【カナデビア株式会社のロゴコンセプト】
引用:新社名「カナデビア株式会社」のシンボルマーク(ロゴ)が決定
シンボルマークのデザインは、新社名と同様にブランドコンセプト「技術の力で人類と自然の調和に挑む」から導いており、「カナデビア株式会社 / Kanadevia Corporation」と同じく使用開始は2024年10月1日からです。
デザインのコンセプトは以下3点です。
1.「a」「 d」「 e」を構成している正円はゆがみがなく完全な形を意味しており、ブランドが培ってきた高い技術力を表しています。その正円によってデザインされた「a」「 d」「 e」の3文字は、シンボルマークにリズムを⽣み出し、力強さ・優しさの双⽅を印象づけるデザインです。
2.シンボルマーク全体にグリーンとブルー2⾊のグラデーションを使用することによって、人類と自然の調和を美しく表現しています。グリーンは「人類を含む自然」、ブルーは「地球」と「テクノロジー」を表しています。
3.ブランドコミュニケーションの展開では、テーマや使用される画像と調和したグラデーションで、多様性ある表現を作り出すことができます。
また同じく社名変更に伴い会社ロゴをリニューアルした例として、SCデジタル株式会社の例をご紹介します。2023年に「SCデジタルメディア株式会社」から社名が変更された時にリニューアルされていますが、こちらはartience株式会社のロゴとは異なり、名称の綴りそのものが一新された訳ではないため、社名変更がロゴリニューアルのきっかけになったというケースです。
【SCデジタル株式会社のロゴコンセプト】
引用:コーポレートサイト及びロゴリニューアルのお知らせ
新ロゴのコンセプトは「C × D」をモチーフにしたロゴデザインです。「C」は「カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience/CX)、「D」は「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation/DX)」。 間にある「×」は 2つが掛け合わさることで、無限(∞)の可能性が生まれることを表現しています。 さらに「×」の図形が枠から飛び出すことで、SCデジタルの独創性やチャレンジ精神を込めています。
②周年に伴うリニューアル
次にご紹介する事例は、2019年にロゴをリニューアルした戸田建設株式会社です。このロゴリニューアルは140周年事業の一環として進められ、デザイナーだけでなく戸田建設グループ社員およびその家族からもロゴ案を募集し作られました。
【戸田建設株式会社のロゴコンセプト】
引用:戸田建設グループ ロゴマークを制定!
ロゴマークのデザインコンセプトは「Orchestrating Innovation」で、多様な図形(=個性・アイデア)の集合体によって「戸田建設」の「戸」を形成し、新しい価値が生まれてくる期待感を表現しています。また、漢字の「戸」をモチーフとしたことによってオリジナリティを高めるとともに、日本発のグローバル企業に向けてクオリティやホスピタリティなどの感性価値を大切にする意志を込めています。
同じく周年を機に会社ロゴがリニューアルされた事例として、2015年に変更された株式会社安川電機のロゴをご紹介いたしましょう。同社は100周年という節目にあたり、真のグローバル企業への進化と更なる成長を目指すべくグループ共通のロゴの刷新を行いました。
【株式会社安川電機のロゴコンセプト】
引用:創立100周年を機にコーポレートロゴを刷新
YASKAWAの信頼感、安定感を表現するシンプルな中でも視認性と可読性の高さを実現する大文字を使ったワードマークです。しなやかな曲線は、人間らしさをイメージさせ、お客様に寄り添い、様々な課題に応えていくYASKAWAの従業員の柔軟性や創造性を表現しています。また、全体的にたおやかに上方へ伸びゆく曲線で、世界へとビジネスを拡大させていくYASKAWAの意志や将来性を想起させています。
③経営統合に伴うリニューアル
複数の会社が経営統合を行い、新しく誕生した会社のロゴへとリニューアルする事例もあります。マルハニチロ株式会社は、水産物のグローバルな調達に強みを持つ株式会社マルハと、食品の開発に強みを持つ株式会社ニチロが一体となり、機能の相互補完を行いながら規模の拡大と生産や販売体制のさらなる効率化を実現し、新たな事業領域の創出を目指し2007年に経営統合がなされました。
【マルハニチロ株式会社のロゴコンセプト】
引用:経営統合のお知らせ
新しい商標は、マルハの「M」とニチロの「N」、2つの波をパターン化してデザインされております。2つの波が共鳴しあい、伝統をベースにしなやかに変化しながら、食の世界に新しい波を起こしたい、世界中においしさをお届けしたいという願いをイメージし、新生「マルハニチロ」の躍動感と生命感を表しております。
また航空業界では、「北海道の翼」の株式会社AIRDOと「九州・沖縄の翼」の株式会社ソラシドエアによる株式会社リージョナルプラスウイングスが2023年に設立されました。社名には、「地域(リージョナル)に寄り添い続け、"北海道の翼""九州・沖縄の翼"の2つの翼(ウイングス)で、新たな需要と価値を創出(プラス)する」という想いが込められています。
【株式会社リージョナルプラスウイングスのロゴコンセプト】
引用:グループロゴのコンセプト
2つの航空会社の協業によるシナジー効果の大いなる可能性を「無限大∞」で表現したデザイン。北と南の空の軌跡がつながり、Rを囲みひろがっていく姿は、地域と共に持続的に成長・発展していくリージョナルプラスウイングスを象徴。その先に輝くプラスは、新しい価値の創出(プラス)と共に、未来へ飛躍する航空機も表現しています。カラーは、2社のブランドイメージカラーを融合し、共創のハーモニーを訴求します。
④買収・売却に伴うリニューアル
企業が他社から買収されたり、他社へ売却されたりし、経営の資本・体制が変わったほとんど場合でロゴがリニューアルされます。現在、ホームセンター・雑貨店を展開する株式会社ハンズは、元々東急不動産ホールディングスの傘下にあった株式会社東急ハンズが経営していましたが、2022年に株式会社カインズに買収され、経営体制が変わりました。買収後、ブランドカラーは踏襲されましたが、ロゴをはじめとする様々なデザインは一新されました。
【株式会社ハンズのロゴコンセプト】
引用:ハンズのロゴが新しくなりました!
ハンズのブランドリニューアルに合わせて刷新したロゴマークは、 原点である「手」がモチーフ。日本発のグローバルなメッセージとして、 あえて漢字を使用したのが特徴です。一方で、過去を継承しつつ未来に向けてアップデートをしていく という想いから、ブランドカラーは 従来の「ハンズグリーン」を 踏襲しています。さらに端部をつなぎ合わせ、途切れることの ない「一筆書き」でしたためました。
また会社ロゴが売却先のロゴに変更されるケースもあります。現在は株式会社ミライト・ワンの子会社である西武建設株式会社は、社名にもある通り元々西武グループの企業でしたが、2022年に株式の95%が譲渡されミライト・ホールディングスの連結子会社となりました。その際ロゴも変更され、西武建設の社名は残りつつも、売却後はミライト・ワンのシンボルマークが冠されるようになりました。
【ミライト・ワングループのロゴコンセプト】
引用:西武建設株式会社 新コーポレートロゴについて
ミライト・ワングループのロゴマークは「未来への扉」です。一人一人の社員が様々なパートナーとともに新たな挑戦を行うことを通じて、「ワクワクするみらい」を切り開く姿を象徴したものです。開かれた扉は、同時にMIRAIT ONEの「M」を形作り、その真ん中にはローマ字の「1」(ONE)が隠れています。また、上下に事業の広がりを感じさせるアークを表現しています。コーポレートカラーも信頼性と先進性を感じさせるMIRAIT ONEブルーを採用しています。
⑤グローバルブランド構築に伴うリニューアル
海外進出、事業のグローバル化に伴い、日本国内だけでなく世界でも共通で使えるロゴとするためにリニューアルする例もあります。味の素グループは1909年の創業以来積極的に海外展開を進め、世界30の国・地域で事業を展開していましたが、海外でのブランド認知率向上、“言語を超えた”シンボル創造を目的に、2017年にグローバルロゴを発表しました。
【味の素グループのグローバルロゴコンセプト】
引用:せかいでつかう“グローバルロゴ”が、できたんダ。
“味の素(Ajinomoto)”は、“味のもと(Essence of Taste)”→“おいしさのもと(Essence of Umami)”を意味するものです。“A”には、無限大∞を組み合わせることで、“味(Aji)”を追究し、極め、広めていく意志と、“アミノ酸(Amino acid)”の価値を先端バイオ・ファイン技術で進化、発展させる意志、さらに地球の持続性を促進する意志を込めています。“A”から“j”にかけての流れるラインは人の姿を表し、味とアミノ酸の“A”に人々が集まり(Join)、料理や食事、快適な生活を楽しむ(Joy)ようにという思いを込めています。そして、“j”の下から右上に伸びているラインは、味の素グループが未来に向けて成長、発展していくことを表しています。
他の事例として、古河電気工業株式会社でも2013年にグローバルロゴが発表されています。同社は、グローバル市場にFURUKAWAブランドの存在感をアピールしていくとともに、グループの一体感を醸成するため、このロゴを作成し共有していきました。
【古河電気工業株式会社のグローバルロゴコンセプト】
引用:グループ・グローバルロゴマークを新設
グループ・グローバル経営の新体制発足にあたり、1877(明治10)年に古河グループ創業者の古河市兵衛が定めたヤマイチマーク(注1)で「伝統、日本」のイメージを世界に向けて発信し、一方で社名のフォントをよりスマートなデザインに変え、「技術革新の伝統を継ぎながら、時代の求めに柔軟に応えて世界で貢献する」という社会との約束を表現しました。
(注1)元々は、古河市兵衛が明治10年に長年営んできた生糸業を廃し、鉱山業に専念することを決意した時に作られたマークです。その信条は「鉱業専一」と言われ、その後、足尾銅山を日本一の銅山にまで発展させました。当初からさまざまな技術革新で成長し続けてきたことから、転じて現在では、技術革新のトップリーダーとして社会に貢献していくことを志向しています。
尚、古河電工としてはヤマイチマークを1929(昭和4)年に商標登録しています。
このように会社ロゴのリニューアルは、部屋の模様替えや髪の毛を切るような気分転換で行われることはあまりなく、前章で示したように、事業に関して節目が訪れた時や、何らかの変化が起きた時に行われるものだということが分かったかと思います。
また事業の節目や変化といったタイミングは、会社としてさらに前進する意思や決意を社会に広くPRするタイミングでもあることから、ロゴだけでなくCIやVIといったブランディングも積極的に取り入れたり刷新したりする例が非常に多く見られました。会社ロゴはそういったイメージチェンジの「顔」となる存在ですので、やはりブランディングにおいて重要な位置付けにあると言っても過言ではないでしょう。
ここまでは会社ロゴの作り方について見てまいりましたが、ここから紹介したいのは会社ロゴの「守り方」についてです。ロゴは知的財産で、会社ロゴの財産権を所有するのは言うまでもなくその会社です。
会社が大きくなってくると、ロゴの管理・運用も難しくなり、様々な人が使い、多くのところで使われるようになってきます。そうすると、本意でない使われ方がされたり、場合によっては会社のブランド価値を利用し悪用されるケースもあります。
そこでここでは、せっかく作った会社ロゴの正しい使い方、使われ方が守られるよう、会社ロゴのレギュレーションと商標出願・登録について解説してまいりたいと思います。
会社ロゴのレギュレーションは、ロゴの正しい使用方法やルールを定めたもので、「ガイドブック」や「マニュアル」などと呼ばれることもあります。誰にロゴを扱われてもロゴによって作り出されるブランド・世界観が同じものとなるようにすることを目的に作られます。
次に商標ですが、ロゴを知的財産としてその権利を法的に守っていくために、特許庁に商標登録の出願を行うことです。当然ですが、既に商標登録されているロゴと類似したデザインは認められません。
会社のほとんどは、会社ロゴを作ると同時にレギュレーションを作り、作った会社ロゴの商標出願手続きを行っています。それではそのレギュレーションと商標とはどのようなものなのか、その詳細を以下見てまいりましょう。
まずはじめに、レギュレーションに記載されるルールにはどんなものがあるかをご紹介したいと思います。ルールの数や内容は依頼者と協議して決めるものですが、ここでは標準的に採用されているルールを取り上げたいと思います。
①デザインバリエーション
シンボルマークとロゴタイプのレイアウトやサイズバランス、社名や社名の英文・和文表記、シンボルマーク・ロゴタイプそれぞれ単体で使う時の使い方などについてのルールを定め、そのデザインパターンを規定したものです。ロゴを扱う際はここに記されているデザインパターンのいずれかをそのまま使用しなければならず、たとえば勝手に縦横比を変えたり、表記を省略するといった変更は禁止されています。パターンの数は依頼者との協議で決められ、柔軟な使用を考えているところほど多く設定される傾向があります。
②表示色・背景色の指定
ロゴの表示色については基本的には1パターンですが、単色での利用、グレースケールでの利用を想定した配色、背景色に応じた配色などのルールを定めていることもあります。またCIやVIの観点から、背景色についても使用可能な色を定めている場合が多く、テーマカラーとグレースケールの背景色に限定しているパターンが多く見られます。なお背景色に応じたロゴの表示色を細かく指定している事例もよく見られ、色はロゴレギュレーションにおいて最も詳細にルールを定める傾向にあります。また色の指定方法としては、ディスプレイで表示される媒体向けにはRGBの数値およびカラーコードで指定され、印刷媒体向けにはCMYKの数値および色見本帳による色番号で指定されます。
③書体の指定
ロゴタイプの文字に既存の書体を使用している場合、あるいは依頼者側で開発したオリジナルの書体をロゴタイプに使用している場合は、書体の指定をロゴレギュレーション上で定めていることがあります。これは様々な制作物で使用する書体をCI・VIにおいて指定している時に多く、ロゴもその一環で書体指定されていることを記しているのです。文字数が多い和文表記で行われることはほとんどありませんが、英文表記、アルファベット表記、ひらがな・カタカナ表記ではしばしば見られるルールです。
④アイソレーションエリア(不可侵エリア)の指定
アイソレーションエリア(不可侵エリア)とは、ロゴに他の文字や図形などの要素が重なったり近づき過ぎたりして、ロゴ本来の意匠性や視認性を損ねてしまわないように設けた一定の余白スペースです。ロゴに他の要素が近づいたり重なったりすると、ロゴの一部であるかのように誤解されることは容易に考えられます。そのためこのアイソレーションエリアの設定はほとんどのロゴレギュレーションで定められています。余白スペースの大きさや設定根拠などは会社によって様々ですが、ロゴの一部で基準サイズを定め、それに何らかの定数を掛けたサイズによって四方の余白スペースを定めるやり方が多く見られます。
⑤最小サイズの指定
ロゴのデザインやロゴタイプの文字がきちんと視認・可読できる最小サイズを定めたのがこのルールになります。サイズ指定には印刷媒体・Web媒体の2種類があり、印刷媒体の場合はmm(ミリメートル)単位での指定、モニターで表示されるデジタル媒体ではpixel(ピクセル)単位での指定が行われます。特に複雑なデザインやロゴタイプの文字数が多いロゴではは、視認性・可読性に対して慎重になると思います。その場合はロゴの使用用途などを事前に検討し、検証を重ねて最小サイズを定めることが重要になってくるでしょう。
⑥使用禁止例
ロゴを使用する際、表示する角度を変えてはいけない、ロゴ自体のプロポーションを変えてはいけない、ロゴを枠で囲ってはいけない等、想定できるあらゆる使用禁止例を定めたのがこのルールになります。ここまでご紹介したルールで体系的に制約を定めてはいるものの、その範疇には該当しないケースもたくさんあり、それをカバーするのが使用禁止例設定です。ヴィジュアルで具体的に例を示すため、読む人にとっても分かりやすいルールとなっています。
冒頭で「ロゴを知的財産として法的に守っていく」ことが商標出願の目的だと述べましたが、具体的にどのような効果があるかというと、
・ブランドを法的に守ることができる
・ロゴや名称を安心して使用できる
・ロゴや名称が他人に無断で使用されることを阻止できる
・登録商標を示すRマーク(®)を付すことができ、社会的信用が得られる
などが挙げられます。
作ったロゴの権利を守りたい方は、積極的に商標出願・登録をしたがるのですが、その手続きはあくまでも法律の範疇で行うものであるため、法律は専門外であるロゴデザイン会社だけでは何も進められません。依頼者がロゴを商標出願・登録したいと希望した場合、ほとんどのロゴデザイン会社は弁理士法人や特許事務所に協力してもらいながら進めるようにしています。
また商標出願・登録を前提としたロゴ制作を行う場合、通常の制作工程とは少し違う進め方をすることがあります。当サービスsynchlogoの例を紹介すると、多くの場合ロゴが完成した後に商標の手続きを始めるのですが、synchlogoでは特許庁の審査が確実に通るように、デザイン案ができた後に類似したロゴが既に登録されていないかの調査を行うことをお勧めしています。調査の結果もし問題が見つかったら、その時点ですぐにデザイン案に修正・調整を加えるのです。これによって審査が通らなかった場合、再びゼロからロゴを作り直さなければいけなくなるリスクが回避でき、制作の手戻りを最小限で済むようにしているのです。
このように弁理士法人や特許事務所と協力して商標登録できるロゴを作っていくのであれば、ロゴデザイン会社にもある程度商標に関する知識を持つようにしなければなりません。そうでなければ弁理士法人や特許事務所と協議・対話して効率的に進めることができないからです。
会社ロゴの作り方について解説してきましたが、どのようにすれば起業時の「顔」となる会社のロゴマークが作れるか、このコラムから少しはヒントが掴めたのではないかと思います。
そしてsynchlogoは今後も全国の企業に向け、さらに充実したロゴ制作専門サービスとなるよう努めてまいりたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
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