
ロゴ制作・ロゴデザインを依頼するならsynchlogo(シンクロゴ)
COLUMN
synchlogoへのご相談のほとんどは、起業して会社を設立する方、あるいは会社組織をリニューアルする方からの「企業ロゴ・会社ロゴ作成」についてです。その方々になぜ新しくロゴを作ろうと考えたのかを伺うと、少なくとも以下3点のいずれかが答えとして返ってきます。
・業界や世の中に自社を知ってもらうため(=認知)
・競合他社との違いを明確にするため(=差別化)
・まともな会社に見えるようにするため(=信頼性向上)
これらは「ブランディング」と呼ばれる活動の一環なのですが、そうとは知らず、無意識に行おうとしている方が非常に多くいらっしゃいます。
会社ロゴは、このブランディングのことを理解した上で作成すると、より魅力的な効果を発揮し、企業活動に大きく貢献するようになります。
このコラムは、特に起業時に知っておいてもらいたい、「企業活動に役立つロゴ」の作り方・デザイン方法を、ブランディングの観点から考察したものです。
当サービスにロゴ制作をご依頼くださる方だけでなく、これから企業ロゴ・会社ロゴを作ろうと考えている皆様に是非一度ご覧頂ければと考えています。
【目次】
ファッション業界など、限られたジャンルで使われてきた「ブランド」という概念ですが、近年は広く一般的になり、ビジネスの世界でもよく耳にするようになりました。
企業におけるブランドとは、一言でいうと、会社自体の価値や他社と比べた時の優位性のことを指し、その価値および優位性を世の中に伝える活動のことを「企業ブランディング」と言います。
こう聞くと何だか難しそうで、起業してすぐのタイミングではハードルが高く、ブランディングのための企業ロゴ・会社ロゴなんて本当にできるの?と心配や不安を覚える方も少なくないと思います。
この章では、まずその心配や不安が取り越し苦労であることを説明していきたいと思います。
簡単に言うと、企業ロゴ・会社ロゴは企業ブランディングにおけるシンボルです。そのため、ロゴはブランドの「顔」ともよく言われます。
企業ブランディングと聞いてまず思いつくのは広告ではないでしょうか。CMやポスター、折込チラシ、最近ではSNSや動画なども挙げられるかと思いますが、何らかのヴィジュアル表現が伴うこれら企業広告では、必ず会社のロゴがシンボリックに扱われていると思います。
これら広告その他において、それ自体がアピールする内容とは別に、「〇〇な企業なのかな」と、ロゴを見た人に対して、一瞬で何らかのイメージを与えるのが会社ロゴの役割なのです。
そのはたらきについて、企業ブランディングにおける最も身近な媒体である名刺を例に説明したいと思います。
上の2つの名刺デザインをご覧ください。左はロゴがない名刺、右はロゴがある名刺ですが、これを見比べてどう感じるでしょうか。
左のテキストだけで構成された名刺からは、そこに書かれてある諸情報以上のイメージは特に何も感じられず、名刺としても少し寂しい印象を受けると思います。
一方右の名刺からは、デザインされたロゴが加わったことにより、「翼みたいなマークは飛躍や発展を目指しているのかな」という期待感や、「左右対称で整った感じのマークだから真面目なのかな」といった信頼感など、真の意味はさておき、少なくともポジティブなイメージは湧いてくると思います。
名刺は、従業員および所属する会社の情報を伝えることを目的にしたものですから、会社ロゴを載せることは必ずしも必要ではありません。しかし右の例のようにデザインされたロゴを載せることによって、名刺が単なる情報を伝える媒体から、その会社のイメージアップに貢献する、すなわちブランディングに役立つ媒体へと変化しているのです。
まとめますと、
・ロゴを見た人に対して、一瞬で何らかのイメージを与える
・ビジネスツールなどを、ブランディングに役立つ媒体へと変化させる
以上が企業ブランディングにおける企業ロゴ・会社ロゴの役割となります。
ロゴ制作の相談をしている際、「我が社は強みがある企業ではない」「会社に特別な“売り”がある訳ではない」とおっしゃるお客様は意外と多く、そんな自分たちでも自社らしいロゴはできるの?ブランディングはできるの?と不安を漏らす場面を何度も見てきました。
そんな時、「ブランドは作るものではなく、既にあるもの」ということをよくお話しします。
起業を決断した方が作った会社には、何らかのブランドが必ずあります。
なぜなら、理想や勝算がなければ起業などしないはずで、その「理想」や「勝算」こそが企業のブランドそのものだからです。
理想とは、どんな会社にしたい、設立した会社で何をしたい、業界や世の中にどんな影響を与えたいかという考えで、勝算は、それらを実現するためのプランです。
たとえば、「社員や顧客を幸せにする会社にしたい」という、当たり前のような理想も企業の価値としては十分ですし、「まだ誰もやってないからやってみる」という誰でも思いつきそうな勝算も、パイオニアとして有効な優位性になります。
この理想や勝算を「ブランド」という名に変えて、世の中に広める活動が「ブランディング」ですので、起業を志した方であれば、誰でもブランディングを実行することはできますし、ブランディングのための企業ロゴ・会社ロゴを作ることも難しくないのです。
具体的な企業ロゴ・会社ロゴの作り方は次章からの解説となりますが、その前に、ロゴさえ作れば起業してすぐにブランディングが始められることを知ってもらいたいと思います。
なぜロゴを作ればすぐにブランディングが始められるかというと、先ほどの名刺の例のように、起業時に最低限揃えそうな各種ビジネスツールにも同様に作ったロゴを載せていけば、それらをすべてブランディングの媒体へと変化させることができるからです。
それではその媒体の具体例を、ロゴの使い方や効果とともにいくつかご覧頂き、この章の締めくくりにしたいと思います。
◆名刺
先ほども例として挙げましたが、ビジネスシーンで最も身近なアイテムが名刺です。synchlogoでもお客様の半数近くが「名刺も合わせて作って欲しい」とご依頼くださいます。今の時代、名刺を持っていることはもはやマナーであるとも言えるでしょう。
名刺におけるロゴのはたらきとして、テキストだらけのカードに個性を与えることが挙げられるでしょう。氏名や社名、住所・連絡先等のテキストしか書かれていない名刺には特徴がなく、受け取った人には何の印象も残さないと思います。また名刺は、テキストのレイアウトが少々異なるくらいで、突出したデザインの違いはほとんどんなく、記憶に残る箇所と言えばロゴのデザインくらいなものなのです。名刺の役割のひとつとして、渡した相手に自分のことを覚えてもらうというのがあると思います。ですが名刺そのものの印象が薄いと、その役割を十分に果たすことはできないでしょう。よって名刺を印象的に魅せるロゴの存在が重要となる訳です。
◆封筒
封筒は書類や資料を郵送・発送する際や、持ち歩く際の包装として使われます。封筒自体のサイズは決まった規格が何種類かありますが、ビジネスシーンでよく使わるのは「長3」「角2」と呼ばれる規格です。
名刺と同じく、封筒もロゴと一緒にデザインのご依頼を頂くことが多いビジネスアイテムですが、近年はインターネットの普及により、情報の送受信をアナログで行うことが少なくなり、封筒により郵送・発送を行うことは徐々に少なくなっています。しかしビジネスシーンでは、機密情報などの取り扱いではいまだ必要な場面があり、また「重要書類はやはり紙が良い」という旧来の考え方も根強く、現在もなお、封筒をビジネスアイテムとして準備している=企業として信頼できるという見方をされることもしばしばあるでしょう。
そんな封筒ですが、包装面に目を向けると、その多くには郵送・発送する際の発送元情報として会社名や住所、氏名などを印刷するのが一般的です。そして封筒デザインについては、名刺デザイン同様それらテキストのレイアウトが少々異なる程度で、やはり突出したデザインの違いはほとんどんなく、記憶に残る箇所はロゴのデザインくらいになります。そのため名刺同様ロゴには封筒に個性を与えるはたらきがあると言えます。
一方名刺と異なるのは、外出時に持ち歩くことがあるという点です。顧客が資料を入れて持ち帰ったり、従業員が書類を客先まで持ち歩いたりなど、移動時に使う袋としても活用されます。その封筒にロゴが印刷されていれば、ショッピングバッグと同様なはたらきをし、PRツールとして活用することもできるでしょう。
◆会社案内
会社案内は、パンフレットやリーフレットといった形で作られますが、いずれも会社の概要や事業の内容、理念やヴィジョンなどの情報をまとめたものです。会社の自己紹介をするためのツールですので、限られたページ数で分かりやすく要点をまとめて作ることが大切になります。
そんな会社案内において、ロゴがブランディングにどのようにはたらくかというと、ロゴデザインが紙面デザインのトンマナにもなるということです。トンマナとはトーン&マナーの略で、「トーン(tone=色や色調)」と「マナー(manner=様式や作風)」という意味から成っているものですが、ブランディングにおいて様々な媒体のデザインに統一感を与えるための概念として知られています。
具体的には、ロゴに使われている色を紙面のベースカラーやアクセントカラーに使ったり、ロゴのデザインモチーフを紙面にも取り入れたりします。ロゴは、紙面における単なるシンボルとして機能するだけでなく、紙面デザインの指針としてもはたらいていると言えるでしょう。
◆資料・書類
説明やプレゼンテーションに使用する資料や、見積書や送信票などの書類などは、仕事をスムーズに進める上で不可欠なものです。しかしそれらを作る際、内容が端的に伝わるようにする工夫は試行錯誤しますが、資料自体の見栄えについては無頓着になりがちではないでしょうか。テキストやグラフ・表、写真や画像など、資料や書類に収めなければならない情報量は少なくなく、それをまとめるだけでもかなり労力はかかります。1度の会議資料のためだけにデザインを頑張れないのは、かけた労力分の結果が期待できないからに違いありません。
ですが、やはり多少の見栄えは気になります。どんなに内容が良くても、資料や書類の見た目がイマイチなせいで、内容の信憑性を下げてしまうことを懸念する人も少なくないのではないでしょうか。
そこで活躍するのがロゴです。テキストやグラフなど無機質な情報が並ぶ中、資料や種類の隅にロゴを添えておくと、それが紙面のアクセントとなり、それなりに見栄えのする資料・書類が出来上がります。また会社案内と同様に、ロゴのトンマナをテキストやグラフといった資料・書類を構成する要素にも適用できると、よりイメージアップにつながる「媒体」として仕上げることができるでしょう。
◆看板
建物や店舗がそこにあることの目印として、あるいは宣伝広告として設置する看板は、ロゴが最も活躍する設置箇所のひとつと言っても過言ではないでしょう。ロゴは企業・会社の「顔」とよく言われますが、まさに顔としての使い方がこれだと思います。
看板はアイキャッチを目的にしていることから、どの距離からどのくらいの大きさで見えるかという視認性が重要となります。見え方によってその会社の風格や威厳など、感じられるイメージが異なってくるため注意が必要です。
また他のビジネスアイテムとは違い、看板はロゴをメインにデザインされます。ここまで紹介した名刺、封筒、会社案内、資料・書類はDTP(Desktop Publishing=パソコン上で印刷物のデータを制作すること)と呼ばれるデザインの範疇で、載せる情報や要素の優先順位や主従関係を整理し機能的な紙面となるように制作します。そのためデザインの中でロゴの存在感が1位にならないこともしばしばあります。一方看板は必ずロゴが主役で、とにかくしっかり目立つように使われます。よって、看板は最もロゴが活躍できるビジネスアイテムだと言えるのです。
◆Webサイト
※Web制作:株式会社ENVY DESIGN
Webサイトは、今や会社にはなくてはならないビジネスアイテムになりました。会社が行っている事業の紹介、規模や仕組みなどの組織情報の掲示、ブログやお知らせなどの広報、Q&A、問い合わせフォームなどを備えたコーポレートサイトをはじめ、商品やサービスを販売するECサイト、動画などを配信するコンテンツ配信サイト、Amazonや楽天といったマーケットプレイスなど、会社とユーザーをつなぐ基盤(プラットフォーム)として、現代ビジネス社会におけるインフラ的な扱いになっています。
そのWebサイトにおいて、ロゴはほぼ必ずトップページに掲げられています。そして多くのWebのデザインは、会社案内同様、ロゴのトンマナを踏襲したデザインとなっている例が多く見られます。しかし会社案内の場合、ロゴは表紙でも控えめなところにあったり、裏表紙など目立たない場所に配置されることもしばしばですが、ホームページではほぼ必ずトップページ一番上に配置されていると思います。
これはもちろん、ロゴをWebサイトのアクセント、アイキャッチとしてはたらかせるデザイン的な意味もあります。しかし、ほとんどの企業サイトにおいて、「ロゴをクリック=サイトのトップページへ移動」というユーザビリティ的観点の機能も与えられており、そのため最近のサイトでは、スクロールしてもロゴもしくはロゴを含むヘッダー部分だけはブラウザ上に表示され続け、いつでもロゴをクリックすればトップページまで戻れるようになっているのです。
◆SNS
近年のビジネスシーンでもSNSの活用が頻繁に見られるようになりました。もともとは個人の発信ツール・コミュニケーションツールとしての利用がほとんどだったのですが、今ではPRのために導入する会社も多く、X(旧Twitter)やFacebookをはじめ、InstagramやTikTok、YouTubeまで活用する例も見られるようになってきました。
会社がSNSを活用する際、ロゴはプロフィールやタイムライン上に表示されるアイコンに使われることが多くあります。synchlogoのお客様でも、「SNSのプロフィール画像にも使うので、円形に上手く収まるようなプロポーションでデザインしてください」といった要望も増えています。
アイコンは、現実世界における看板のような役割を果たしていることから、視認性が非常に重要となります。たとえばタイムライン上には様々なアイコンが並び、その中では自社のアイコン(ロゴ)が目を惹く存在とならなければなりません。さらに、表示されるアイコンのサイズは非常小さく、豆粒のようなサイズでも視認できるロゴでなければアイコンとして機能しないというのがSNSならではの特徴として挙げられます。
このコラムの序章として、企業ブランディングやそのためのロゴづくりはそれほど難しく考えなくてよい、ということを1章では解説してきました。そして、続くこの2章からがいよいよ本論となります。
1章の最後は、「ロゴさえ作れば身近なもので企業ブランディングは始められる」という形で締めくくりましたが、もちろんどんなロゴでも機能するという訳ではありません。ブランディングとして効果的にはたらくロゴを作るには、それなりの手順やポイントがあります。
そこでこの2章では、まずはじめに起業時のブランディングに適したロゴとはどんなロゴなのか?について考えていきたいと思います。
まず知ってもらいたいのは、ロゴには大きく2つの種類があるということです。ひとつはシンボルマークを有する「ロゴマーク」と呼ばれるもの。もうひとつはシンボルマークを持たない、企業名・会社名の文字列にデザインを加えロゴ化した「ロゴタイプ」です。
ロゴマークもロゴタイプも、コーポレートロゴではどちらも使われているものですが、「ロゴ」と言えばシンボルマーク、すなわちロゴマークの方を思い浮かべる人も多いかと思いのではないでしょうか。ではどちらの方が会社のロゴとしては多く使われているか調べてみましょう。
上記「Best Japan Brands 2025 Rankings」は、日本の企業によって生み出された、ブランド価値が高いとされる企業および事業ブランド100点のロゴです。この中で、シンボルマークを有するロゴマーク型のロゴは40点ほどで、残りの60点は全てロゴタイプ型のロゴとなっており、このサンプルではロゴタイプ型のロゴの方が多いことが分かると思います。
しかしこれを見て違和感を感じる方もいると思います。それは、たしかに上記の100点においてはロゴタイプの方が多い結果となっていますが、普段生活している中ではシンボルマークのあるロゴの方を見る機会が多く、感覚的にはロゴマークの方が多いような気がするのではないでしょうか。
そこで違うサンプルとして、当サービスsynchlogoで制作したロゴ制作実績でも調べてみました。「Best Japan Brands 2025 Rankings」と同時期の、2020年前後に制作したロゴを無作為に100点ほど集めてみたところ、ロゴタイプ型のロゴはわずか7点ほどで、ロゴマーク型のロゴは93点にものぼりました。
この2つの結果より、「大企業ほどロゴタイプ型のロゴを使う」「中小企業はロゴマーク型のロゴを使う」という傾向があると推察されました。なぜなら「Best Japan Brands 2025 Rankings」に選出されている企業はいずれも日本を代表する会社が多いのに対し、synchlogoにロゴ制作をご依頼くださるお客様は起業したばかりの会社や中小企業が多いからです。
そうすると、自社を大きく見せるという意味では最初からロゴタイプで企業ロゴ・会社ロゴを作った方が良いのではないか?という考えに至ると思います。たしかに企業名・社名だけをすっきりとデザインしたロゴタイプ型のロゴからは、起業してすぐとは思えない余裕や潔さが感じられ、実際以上の規模に感じられる効果をもたらすかもしれません。しかし筆者はそのやり方は難しいと考えています。それは以下2つの理由があるからです。
①アピール力が弱い
企業名・社名の文字列自体をデザインしたロゴタイプはシンプルで潔さがある一方、特徴的な色やユニークな字体などでヴィジュアルに一定のアピール力を備えなければ、短時間でユーザーや消費者に覚えてもらうことは難しいでしょう。しかしアピールに重きを置いたデザインは、奇をてらうような方向になりがちで、逆に大企業らしくないロゴタイプになってしまうおそれがあります。
大企業がロゴタイプを使うのは、既に認知も差別化も十分行えているため、ロゴデザインにアピール力を求めていないからだと思います。つまり逆を言うと、大企業らしい落ち着いたロゴにすると、起業直後には特に必要な、認知と差別化に寄与するはたらきが得られにくくなってしまうという訳です。企業・会社にとってそれは勿体なく、企業・会社の顔となるロゴには、自社を大きく見せることよりアピールの役割を果たしてもらうことの方が大切だと考えられます。そのため、起業してすぐのタイミングでのロゴ作成にロゴタイプは適しておらず、アピール力あるデザインのシンボルマークを有するロゴマークを採用した方が良いのです。
②ブランディングのデザイン要素として使いづらい
ブランディングの一環として持続的かつ効果的なPRが行えるように、ロゴはそのデザインの一要素として、企業・会社が提供する商品やサービスのあらゆるところに使われるようになります。例えばNIKEやスターバックスコーヒーの商品を見ると、商品や商品パッケージのデザインはロゴを中心に組み立てられており、そのことを見越してロゴのデザインを更新しているのではないかとも考えられるほどです。
ロゴをブランディングの1デザイン要素として考えた時、シンボルマークであれば、上記のNIKEやスターバックスの例のように、商品やパッケージ等へ汎用的に用いやすいですが、ロゴタイプは所詮「文字」であるため、商品やパッケージを見栄え良くすることに貢献しづらいことが容易に予想できます。もちろんユニクロのように、ロゴタイプをシンボルマーク的にデザインし、デザイン要素に用いている例もあります。しかしそれは企業名・会社名が短くシンプルであることを活かしたやり方であって、世の中のほとんどの企業・会社は、それに当てはめることはできないと思います。したがって、起業後すぐにブランディングを行うことを考えると、ロゴタイプよりも、ブランディングに貢献しやすいシンボルマークを有するロゴマークを採用した方が良いのです。
コーポレートロゴが、時代を経てロゴマークからロゴタイプへと変化していった例をひとつご紹介いたしましょう。上記は「Best Japan Brands 2025 Rankings」でも選出されている花王のコーポレートロゴの変遷です。これを見ると、少しずつ形を変えながらではありますが、当初作られた月をモチーフを残しつつ、しばらくはシンボルマークがコーポレートロゴとして使われていました。そこに「花王」や「KAO」の文字が入りロゴマーク化した後、現在ではシンボルマークのない、2021年からは「Kao」の文字だけのロゴタイプが使われるようになっています。またこのロゴタイプに至った理由について、花王オフィシャルサイトではこう書かれています。
グローバルに統一した企業イメージを印象づけることを目的に、花王グループを表すロゴを英文字の「Kao」に変更しました。
このように、世の中に「花王」のブランドが確立され、それまでロゴが担っていた「認知」や「差別化」という他社との競争という意味でのブランディング的役割は終えたと言うことができるでしょう。そのためデザイン的には自社と競合他社とを見分ける「記号」程度の個性で良く、全世界で通用するシンプルな「kao」の3文字だけのロゴタイプになったのだと考えられます。
最後に、「Best Japan Brands 2025 Rankings」のロゴ事例をロゴタイプとロゴマークに分けた上の図を見比べてみてください。ロゴタイプの方は、色や字体に工夫はあっても、ロゴマークに比べるとデザイン的なこだわりはさほどなく、極めてシンプルに作られているように感じられると思います。
シンボルマークを使うのをやめ、新たに掲げたロゴタイプのシンプルさこそが、企業が成熟した証であるとも言えるのではないでしょうか。
起業直後のブランディングに適しているのはシンボルマークを有するロゴ、すなわちロゴマークであることは2章で考察できました。次にこの3章では、そのロゴマークをどのようにデザインしていけば、花王の成長期のように、認知や差別化へと貢献する、ブランドの「顔」となるロゴになるかを考えていきたいと思います。
企業・会社のロゴマークにおいて、ロゴタイプは社名を表す「文字情報」であるのに対し、 シンボルマークは見栄えを良くするための「図形」だと考えている人も少なくないと思います。それももちろん間違いではないですが、しかしそれだけでは「シンボル」とは呼べないでしょう。また、見栄えだけで十分なら、デザイナーなどの専門家の力を借りる必要もないはずです。
そこで、ロゴマークのデザインを考察するために、「シンボルマーク」と「ただのマーク」の違いを実際の事例を通して整理してみましょう。
上の図集は、公共の場でよく見かける「ピクトグラム(案内用図記号)」です。これらは「図形だけで情報を伝える」点でシンボルマークと共通していますが、ピクトグラムは視認者に案内をするためだけに作られた図形なので、「ただのマーク」と言えるでしょう。
上の左の図は「鉄道/鉄道駅」を示すピクトグラム、右は東京メトロのシンボルマークです。どちらも鉄道に関するマークですが、東京メトロのシンボルマークは、鉄道や鉄道会社のマークには見えないかもしれません。では、東京メトロのシンボルマークは何を表現しているのでしょうか? 公式サイトの記述を見てみましょう。
ハートを模したM(「ハートM」)は、メトロ(Metro フランス語で「地下鉄」の意)のほか、東京の中心にあるという存在感やお客様の心に響くサービス、心のこもったサービスを提供し続けるという意志を表します。背景色にはコーポレートカラーである「ブライトブルー」を採用。活き活きとした元気なイメージで、東京メトログループの理念「東京を走らせる力」を表現しています。
引用:東京メトロHP「コーポレートアイデンティティ」より
このようにシンボルマークは、本コラムの冒頭でも紹介した「コーポレートアイデンティティ(Corporate Identity:以下「CI」)」と呼ばれる企業イメージ戦略をシンボル化したもので、単なる記号的なデザインが目的ではありません。これがピクトグラムとの大きな違いです。
また、ピクトグラムは一目で「鉄道」を示すマークなのに対し、東京メトロのシンボルマークを見ても、最初は「M」の文字をアレンジしたものだと気づく程度ではないでしょうか。上記公式サイトの記述を読めば理解はできますが、初見でそのデザインの意図を正確に把握するのは難しいはずです。
実は、この点こそがピクトグラムとの違いのもう一つの重要な部分です。東京メトロのシンボルマークは、デザインの意図を視認者に考えさせ、調べさせることで、東京メトロという会社に興味を持ってもらう広告的役割も果たしているのです。極端に言うと、意図的にデザインの意味を分かりにくくしているとも言えます。
まとめると、シンボルマークが「ただのマーク」と異なる点は次の2つとなります。
①コーポレートアイデンティティ(CI)を形にしたものであり記号ではない
②視認者に興味・関心を持ってもらう広告的役割も担っている
この特異性があるからこそ、企業・会社のロゴマークはブランドの「顔」になれるのです。
では実際シンボルマークを作成する際、形のないCIを視覚的に表現し、さらに見る人の関心も引きつけるデザインとするにはどうすればよいのでしょうか?
そのカギとなるのが「モチーフ設定」です。
例として挙げた東京メトロのシンボルマークを再度見てみましょう。このシンボルマークでは、Mの形をハートにアレンジしてデザインしています。これは以下の意図によるものと考えられます。
・「東京の中心にあるという存在感」→中心部(英語では「heart」)→ハートのモチーフ
・「お客様の心に響くサービス、心のこもったサービスを提供し続けるという意志」→心→ハートのモチーフ
つまり、CIから「ハート」というモチーフを導き出し、それをデザインの骨格にすることで、ロゴマークでCIを表現しようとしているのです。
もちろん、ロゴマークを見た人は、仮にハートの形に気付いても、その元となっているCIの内容まで分かることはありません。しかし、ハートのモチーフがなぜ使われているのかを調べ、ロゴマークとCIの関係性に気付くと、このデザインが生まれた理由に深く納得するでしょう。つまり、CIに関連付けたモチーフ設定を行うと、ロゴマークのデザインに説得力を与えることができるのです。
では、世の中にある企業・会社のロゴマークは、CIのどこに注目し、どのようにモチーフ設定を行ってデザインしているのでしょうか。
ここではそのモチーフ設定の傾向を見つけるのを目的に、2章でも取り上げた「Best Japan Brands 2025 Rankings」に挙げられている40点のロゴマークを調べてみることにしました。なお調査データは、ロゴマークのデザイン解説などが記されている、各企業のサイトにあるブランド紹介ページに基づいています。
調査の結果、モチーフの設定は、以下4つのテーマのいずれかで行われていることが分かりました。以下それぞれのテーマについて、代表例となる企業ロゴ・会社ロゴと合わせて解説していきたいと思います。
①専門領域
会社の専門領域を表すモチーフでデザインすると、その分野に強いことをアピールしたロゴマークとなります。モチーフには業務で用いる象徴的な事物を用いることが多く、調査した対象の中では、製薬会社大手である中外製薬のロゴが最も分かりやすい例でした。
上が同社のロゴマークデザインです。注射薬のアンプルを中央に据え、化学記号のベンゼン核がその周りに取り巻き、頭文字である「中」の文字を形成しています。アンプルもベンゼン核も製薬の分野であることを直感的に感じさせるモチーフで、現在では社名が添えられずとも、同社だと分かるほど認知さえているロゴデザインです。ちなみに日本の大手製薬会社といわれる5社(武田薬品工業、大塚製薬、アステラス製薬、第一三共、中外製薬)のロゴマークのうち、製薬の分野を表すモチーフを用いているのは中外製薬だけであることから、ロゴによるブランドの差別化は成功しているといえるでしょう(下図参照)。
また、専門領域を直接的に表すモチーフを用いると、意味の分かりやすいデザインとなる反面、ピクトグラムのような記号的なロゴマークになることもしばしばあります。その点中外製薬のロゴは、2つのモチーフを組み合わせ、「中」の文字にも見えるようにする工夫によって、視認者の興味・関心を惹くロゴらしいはたらきを生むようにしているのが特徴です。
②経営理念
まず、そもそも企業・会社の経営理念とは何なのかについて改めて整理したいと思います。
経営理念の多くは「Mission(ミッション:果たすべき使命)」「Vision(ヴィジョン:目指す将来像)」「Value(バリュー:価値基準・行動指針)」の3つによって言語化されており、多くの企業が起業時に定めています。
Mission(ミッション)
企業・会社が社会に対してなすべきことを言語化したもので、「企業の使命」や「会社の目標」、あるいは「存在意義」と言った方が分かりやすいかもしれません。なぜ自社が世の中に存在するのか、社会に対してどのような価値を提供できるのかなど、会社が目指す社会について表しています。
Vision(ヴィジョン)
企業・会社が目指す自社のあるべき姿について言語化したもので、「企業の理想像」「会社の方向性」と言った方が分かりやすいかもしれません。ミッションを実現するためにどんな会社ならなければならないのか、あるいは、ミッションを果たした結果、社会がどのような姿になることが理想なのかについて表しています。
Value(バリュー)
企業・会社が行うべきことについて言語化したもので、「企業の価値観」「会社の価値基準」と言った方が分かりやすいかもしれません。ミッションを遂行するにあたって、どのような信念に基づき、どのように行動するか、未来を実現するための具体的な手段・方法について表しています。
ブランディングにおいて、ロゴマークは経営理念のシンボルとして位置付けられていることも少なくありません。しかし経営理念はあくまで「言葉」や「概念」といった形のないものです。それをロゴマークという形あるものにするには、何かの事物に例えて表現することが通例です。
ここではその例として、例えが秀逸な三井不動産のロゴマークを紹介したいと思います。
同社のロゴマークの特徴は、1991年から変わらない「&」のモチーフです。2024年に新しいロゴが発表されましたが、デザインは同じ「&」のモチーフを用いたものになっています。
1991年に定められた「&」マークの理念を引用すると、
「&」マークの理念とは、これまでの社会の中で対立的に考えられ、とらえられてきた「都市と自然」「経済と文化」「働くことと学ぶこと」といった概念を「あれかこれか」という「or」の形ではなく、「あれもこれも」という形で共生・共存させ、価値観の相克を乗り越えて新たな価値観を創出していくもので、1991年4月に制定されました。
(引用:三井不動産グループの環境コミュニケーションワード『&EARTH』設定)
とあり、「共に」という姿勢を一言で表すものして、「&」マークを採用していることが分かります。なお、2024年に再定義された経営理念は「共生・共存・共創により新たな価値を創出する、そのための挑戦を続ける。」であり、マークとともに「共に」の精神を受け継いでいます。
経営理念は社会へ発信する個性として元々インパクトが強いものですから、会社ロゴのモチーフにはもってこいの材料だといえます。さらにそれをモチーフにしたロゴマークは、社会への発信という意義だけだけでなく、社員やグループ会社の士気向上、理念の共有といった内側へ向けてのブランディング(インナーブランディング)効果も期待できるでしょう。
③歴史・伝統
財閥系グループや大手百貨店などが掲げる、創業当時に作られた図案や、地縁や創業者の家系から取った家紋などは、歴史や伝統をモチーフにした代表的なロゴの例です。これらは、使い続けた時間の長さがそのまま価値となるため、それを個性としてブランディングに上手く活用しています。また、大昔に作られた図案や家紋のデザインからは、自然と「古さ」を感じさせるため、否応なしにロゴに「和」の雰囲気を与えられるのが特徴です。
それではその具体例として、キッコーマン株式会社のロゴマークをご覧ください。
このマークは、下総国の一の宮である「香取神宮」にあやかったものとされています。軍神として広く知られている香取神宮は「亀甲」を山号とし、「下総国亀甲山香取神宮」を正式の名称としてきました。
その神宝は「三盛亀甲紋松鶴鏡」と名付けられている古代の鏡で、この鏡の裏面にある亀甲文様を図案化し、「亀は万歳の仙齢を有する」という故事から、亀甲にちなんで「萬」の文字を入れたという伝承があります。
(引用:醤油などで有名なキッコーマンのロゴにある六角形の印はなに?? -広報さんに聞いてみた
TECH+(テックプラス))
こうした大昔に作られた図案には、いくつかの決まった図形パターンがあります。上記キッコーマンの図案は、屋号をもとに、「亀甲(図案)」+「萬(文字)」の組み合わせで出来ていますが、この「亀甲」+「〇〇」で作られたロゴマークは他にもたくさんあり、下記の例などが挙げられます。
なお、この亀甲の形は、「亀甲紋」として古くから用いられている図案で、特に、平安時代以降、貴族階級で用いられてきた伝統的な文様は「有職(ゆうそく)文様」とも呼ばれています。有職文様は、大名や武将の家紋のほか、神社の神紋としても広く使われていますが、それらは亀甲紋の中に文字ではなく他の文様が据えられていることが多いようです。
このように、歴史・伝統モチーフの多くは、古くから伝わる「様式」に基づいた図案によって作られていることが分かったかと思います。また逆に、この作られ方を理解しておけば、様々な文様を使い、歴史・伝統を感じさせるロゴを新しく作るのはそう難しくないといえるでしょう。
④社名(の意味や由来)
必ず競合他社とは同じにしないという点で、社名はCIそのものと言えるかもしれません。
また社名をモチーフにしたシンボルマークは、ロゴタイプとして添えられる社名の字面によって、デザインの由来が一目で分かることから、印象的で覚えやすいロゴになりやすいというメリットもあります。
そういった意味で、社名に含まれている事物やイニシャルでロゴマークをデザインすることは、ブランディングの目的である「認知」や「差別化」を手っ取り早く行える方法だと言えるでしょう
その分かりやすい例として、6つの輝く星でお馴染みの、SUBARUのロゴをご紹介いたしましょう。
以下がそのロゴデザインと、モチーフとなっている社名の由来になります。
SUBARUは、別名「六連星(むつらぼし)」とも呼ばれる星団の名前です。
SUBARUの前身である富士重工業が、旧・中島飛行機の流れをくむ5社の資本出資によって設立されたことから、6個の星団を意味するSUBARUと名付けられました。
なお、SUBARU(すばる・昴)は純粋な日本語です。自動車の名前に和名を使ったのは、SUBARUが最初となります。
(引用:社名「株式会社SUBARU」の由来を教えてください。
お問い合わせ/よくあるご質問
SUBARU)
このように、自動車に和名を使うあたり、同社はネーミングから他社と差別化を図ろうとしており、ロゴ作成前からブランディングを強く意識している様子がうかがえます。ちなみに現在の「株式会社SUBARU」という社名は、元々自動車事業のブランド名である「SUBARU」からきており、以前の社名は「富士重工業株式会社」でした。また、一見社名をただ形にしただけに見える6つの星のモチーフには、実は創業当時の記憶が込められていたことも分かったかと思います。
もう一つ特徴的な例として、りそなホールディングスのロゴをご紹介いたしましょう。
以下が同社のネーミングとロゴデザインの説明になります。
◆ネーミング
「りそな」は、ラテン語で「Resona=共鳴する、響きわたる」という意味を持っています。
私たちにとって、もっとも大切なものは、お客さまの声です。お客さまの声に耳を傾け、共鳴し、響き合いながら、お客さまとの間に揺るぎない絆を築いていこうという思いをこのネーミングに込めました。
◆シンボルマーク
「りそな」を象徴するシンボルマークは、2つのRをモチーフとしており、「りそな(Resona)」と「地域(Regional)」が共鳴し合う様子を表現しています。
また、全体を囲む正円は「安心感」「信頼感」を表現しています。
地域のお客さまと互いに触れ合い、感じ合い、理解し合う中から生まれる信頼関係を大切にしていくという私たちの思いをこのシンボルマークに込めました。
(引用:りそなブランド|グループの概要|りそなホールディングス)
このロゴマークのモチーフである「R」は、単に社名のイニシャルを用いただけのように見えます。しかし上記の説明によると、実は社名の「りそな」に込められた意味(「共鳴」)もマークに表現されていることに気付いたのではないでしょうか。
このように、社名をモチーフにしたロゴマークは、一見安易にデザインしているように見えるかもしれません。しかしそれは間違いで、多くの場合、社名自体が何らかの意味や由来に基づいてネーミングされていることから、それがデザインの背景や奥深さにもつながっている訳です。
調査結果で挙げた「①専門領域」「②経営理念」「③歴史・伝統」「④社名(の意味や由来)」は、全てCIを構成するテーマで、ロゴマークはその一部分を切り取ってシンボル化したに過ぎません。ロゴマークでCIの全てを表現するのは当然不可能なので、実際デザインを行う際は、どのテーマに注目するかを決め、モチーフ設定を行うことになる訳です。
例えば、「②経営理念」で挙げた三井不動産などは、戦前の三井財閥の流れを汲む三井グループの会社であることから、同グループの会社である三井物産のように、「③歴史・伝統」をテーマに、かつての店章である「丸に井桁三」をモチーフにしたロゴマークをデザインすることもできたはずです。
しかしそれをせず、経営理念をテーマに据え、「&」マークをモチーフにしたロゴマークをデザインしたというのは、歴史・伝統よりも経営理念の方を世の中に発信するテーマとして優先させたのだと見ることができるでしょう。なお、同社のロゴマークデザイン説明を見ると、末文に「青い部分には井桁マークが隠れており、各所から当社らしさを感じることができるマークとした。」とあり、メインではないけれど、隠し味程度に歴史・伝統のテーマも取り入れたこともうかがえます。
つまり、会社のロゴマークは、その時最も発信したいテーマでデザインするべきであり、また逆に、会社のロゴマークを見れば、その会社がいま一番世の中に発信したいテーマが何か分かる、ということになるのです。
ここまでは、企業・会社のロゴマークデザインについて、ブランディングにおける「認知」や「差別化」の視点から考察を行ってまいりました。競合他社と競うためにその視点はとても重要で、なぜなら起業直後は知られてなければ始まらないし、比べられた時に選んでもらえないからです。
しかし、企業ロゴ・会社ロゴにはブランディングにおいてもう一つ大切な役割があります。それは、顧客や利用者に「信頼できる企業・会社」だと感じてもらうことです。なぜならそれによって、安心して商品を購入する、サービスを利用する、仕事を依頼するといった、具体的な行動を促すことへと繋がっていくからです。
極端な例ですが、信頼が命である銀行のロゴマークが、たとえば上記のようなドクロをモチーフにした禍々しいデザインだったらどうでしょう。見た目のインパクトは絶大なので、認知や差別化は可能にするでしょう。しかし、「ドクロ=怖い」という一般的なイメージによって、その認知や差別化はマイナスな意味でしかなく、結果、このデザインによるブランド構築は失敗していると言わざるを得ません。
このように、ブランド構築は、やり方一つでプラスの方向にもマイナスの方向にも向かう可能性を持っています。ですので、正しいブランド構築に貢献するロゴマークのデザインとは、「信頼できる企業・会社」だと感じてもらえることが前提となるのです。
そこでこの章では、「信頼できる企業・会社」だと感じてもらえるロゴマークをデザインするにはどうすればよいか、前章までとは少し違う視点から考察してみたいと思います。
3章では、企業・会社のロゴマークとはブランドの「顔」であり、「企業・会社が発信したいことを表現した媒体」と位置付け、そのデザインについて考察してきました。しかしこの考察は、自身が他者に「こう見て欲しい」という主観的な考えに基づいたものであり、必ずしも他者からその通りに見てもらえるとは限らないことを忘れてはなりません。
そのことが分かる例をひとつご紹介いたしましょう。上記は誰もが一度は見たことがある「鹿島建設」のロゴマークですが、このシンボルマークはどんな意図で作られているかお分かりでしょうか?
正解は、白地部分に注目すると、「カジマ」の「カ」の文字が隠されていることです。このシンボルマークは、同社の創業時に使われていた、大工道具の曲尺を表すL字型の図形に「カ」の文字を加えたロゴ(当時の言い方だと「商標」)を継承したデザインで、3章で示した中では「③歴史・伝統」に該当するモチーフ設定だと言えるでしょう。
しかし、その「カ」の文字には気付かず、赤色で作られた図形部分に注目し、英語の「in」の文字に見えていたという意見がネットの記事やSNSで散見されます。そして、実は何を隠そう筆者も大人になるまでは、同じようにこのマークは「in」という文字を表すものだと思っていました。
他者からの見え方を完全に限定するデザインは不可能です。一方で、想定外の、バラエティ豊かな見られ方をすることもロゴデザインの価値のひとつです。ですが、不本意な見られ方だけは避けなければなりません。そのためには、作ったロゴマークがどう見えるかを様々な角度から検証するという、徹底した客観視を行うことが、「信頼できる会社」だと感じてもらえるロゴを作るための第一歩ではないかと思うのです。
冒頭では極端な例を挙げましたが、そのドクロのように、わざわざイメージを悪くするモチーフを用いるなどしなければ、信頼を損ねるデザインが出来上がることはめったにありません。しかし、その逆の、「信頼できる企業・会社」だと感じてもらえるロゴマークを積極的に作りたい時は、一体どのようにデザインすればよいのでしょうか?
ここではそのロゴマークを作るのに役立つ、3つのデザインロジックをご紹介いたします。
以下、1つずつその解説をご覧ください。
①不安・不快になる要素は取り除いたデザインにする
当たり前のことですが、人を不安・不快にさせるロゴを掲げている企業を信頼する人はいません。冒頭のドクロの例のように、一般的にマイナスイメージとして捉えられているモチーフや図形を、積極的にデザインへと用いるなどはもってのほかです。
しかし、気を付けなければならないケースがあります。それは、大半の人は大丈夫でも、一部の人は不安・不快と感じるデザインが世の中にはあるからです。
例としては、連続した点や図形の集合体や豹紋柄などの模様は、「集合体恐怖症(トライポフォビア)」を触発すると言われるようになったことなどが挙げられるでしょう。
これは、2019年にCNNが以下のように報じています。
米アップルが11日に発表した新しいiPhoneをめぐり、3つのレンズが並ぶデザインが「集合体恐怖症」の症状を発症させるという声が相次いでいる。集合体恐怖症は、ハチの巣やハスの実のような小さな穴や斑点の集まりに対して恐怖を感じる症状。新しいiPhone 11の「Pro」と「Pro Max」は3つのカメラを搭載し、背面にレンズが並ぶデザインになった。ところがそれを見てこの症状を発症したという投稿が、ツイッターなどのSNSで続出した。
(引用:新型iPhone怖い、「集合体恐怖症」発症者が続出 - CNN.co.jp)
また、2020年に読売新聞が報じた、2025年大阪万博のロゴデザインに対する賛否両論については記憶に新しいところでしょう。
2025年大阪・関西万博のロゴマークに賛否両論が巻き起こっている。非対称で奇抜なデザインに、ネットでは「かわいい」「愛着がわく」と好意的な声がある一方で、「気持ち悪い」といった「拒否反応」も目立つ。ロゴマークはグッズなどに活用され、「万博の顔」となるだけに、具体的な選考過程を明らかにするよう求める声も上がる。
(引用:大阪万博ロゴに賛否「かわいい」「気持ち悪い」…菓子のキャラに類似との声も : 読売新聞)
こういった現象は不可抗力なのかもしれません。しかし極力そうならないようにするためには、やはりデザインを客観的に見て、徹底的にどう感じるかを検証するほかありません。全方向から確認するのは難しいかもしれませんが、様々な角度から精査し、可能な限り不安・不快と感じる要素を取り除きながらデザインしていくことが大切になるでしょう。
②既存の傾向を取り入れて「業界らしい」デザインにする
業界によっては、企業が掲げるロゴマークのデザインに何らかの傾向がみられる場合があります。3章で紹介したキッコーマンの例などがそれで、同社の業界である醤油メーカーのロゴは「亀甲紋」をベースにしたデザインが非常に多く見られます。
その他にも、医療業界では、医療・医術の象徴である「アスクレピオスの杖」を用いたロゴマークが多く、自動車メーカーやファッションブランドにおいてはイニシャル文字モチーフをベースにデザインされているなど、様々なところで業界ならではのデザイン傾向を確認することができます。
では、なぜこれらのロゴマークを見ると「信頼できそうな企業・会社だ」という印象を受けるのでしょうか。それは、あるデザイン傾向を取り入れるという行為が、その会社の保守的な姿勢を体現しているからです。本来ロゴは、他社との差別化を図るためのツールであることから、革新的で新しいデザインを求めようとするのが一般的です。しかしそれをあえて行わないと、ロゴデザインで他社と競争するつもりがないという、ある種の「余裕」や「風格」などが感じられるようになるのでしょう。
もちろん、革新的なデザインの全てが信頼を損ねるような結果をもたらす訳ではありません。ただ、既存のデザイン傾向があるにも関わらず、あえてその傾向に従わないロゴを掲げると、悪い意味で目に付いてしまうおそれもあります。リスクを背負って新しいデザインに挑戦するより、無難に「業界らしい」デザインにするという選択の方が、「信頼できる企業・会社」という印象に繋がる可能性が高いという訳です。
また、さらに誤解がないように補足すると、既存の傾向に従うことだけが正しいロゴデザインの方法という訳でもありません。ロゴは起業やリブランディングなど、何かしらの節目となるタイミングで作られるため、新規性や革新性のあるデザインが好まれ、古くからある作法や様式をあえて採用しないという考え方もあります。むしろ、新規性や革新性に基づく企業理念を掲げる会社は非常に多く、そういった会社は、あえて既存の傾向に従わないロゴデザインとした方が、良い結果をもたらす場合もあるでしょう。
あくまで、起業してすぐのタイミングにおいて、まだ認知もされてない会社が、手っ取り早く「信頼できる企業・会社」と感じてもらうためには、こういった既存の傾向を取り入れたロゴマークをデザインするのは有効な手段である、と理解してもらえればと思います。
③最小限の要素でシンプルなデザインにする
著名な企業のロゴマークを眺めれていれば誰でも気付くことかもしれませんが、それらに共通しているのは、「シンプルなデザイン」であるということです。ちなみにロゴマークにおけるシンプルなデザインとは、単純な形をしている、色の数が少ない、といったことではありません。それですと、ただの丸や四角のロゴマークが信頼されやすい、優れたデザインだ、ということになってしまいます。
ロゴマークが企業ブランドの「顔」となることは2章で詳しく述べましたが、そのブランドの「顔」となるために必要となる要素だけで作ったものを「シンプルなデザイン」と言います。いくつか例を挙げると、リンゴのモチーフだけでデザインしたAppleのロゴマーク、「スウッシュ」と呼ばれる抽象図形のみのNIKEのロゴマーク、ブランド名の文字だけでデザインしたユニクロのロゴマークなど、有名なデザインだけでも枚挙にいとまがありません。また、意匠としては複雑ですが、人魚のモチーフだけでデザインしたスターバックスコーヒーのロゴマークも、シンプルなデザインと言えるでしょう。
これらシンプルなデザインのロゴマークが、「信頼できる企業・会社」という印象を感じさせるのは、そのデザインの「潔さ」にあると思います。
ロゴマークは、多くの意味やメッセージを発することができるように、2章で紹介したモチーフなどを可能な限り詰め込んでデザインしたくなるものです。しかしそれは、発信したいことが絞り切れていない、とも捉えることができます。著名な企業のロゴマークを見ると、モチーフは1つだけ、多くても2つまでに留めていることが分かります。これは、注目を集めることが主な目的である商品ロゴや店舗ロゴ、サービスロゴなどにはない、企業ロゴ・会社ロゴならではの特徴であると言えるでしょう。
その潔さが、会社の「余裕」や「風格」を感じさせることに繋がり、ロゴマークから「信頼できる企業・会社」という印象が感じられるようになっていくのです。
この3つのデザインロジックは、企業・会社のロゴマークをある1つの方向へと導こうとしています。それは、時代や場所に関わらず、どんな人にでも受け入れてもらえる「普遍的なロゴデザイン」です。どのデザインロジックも、つまるところ、できるだけ多くの人に受け入れてもらえるようにするための手段なのです。
一方で会社のロゴは、このコラムの冒頭でも述べた通り、「認知」や「差別化」が主目的になることもあるため、時として「独創的なロゴデザイン」が必要となります。しかしその独創性があまりに突出し過ぎると、そのロゴ自体を受け入れてくれる人の数を限定してしまうおそれもあります。
このように、企業・会社の信頼感を向上させる「普遍的なロゴデザイン」と、認知や差別化を効率的に実現する「独創的なロゴデザイン」は、相反する関係にあり、双方のバランスをしっかり考えながらデザインしていかなければならないのが、会社ロゴデザインの難しいところなのです。そして、これを可能な限り高い次元で完成させたものが、真にブランディングを理解したロゴデザインといえるのではないかと思います。
ここまでは主に会社ロゴの「形」に関することを解説してまいりましたが、会社ロゴをデザインする上で忘れてはならないのが「色」についてです。赤のロゴの会社といえばコカコーラやユニクロ、緑のロゴの会社といえばスターバックスやLINEが思い浮かぶのではないでしょうか。時に色は形以上にイメージに残りやすく、視覚の8割は「色」が占めるとも言われています。
そこで、ここでは会社ロゴを作る上で大切な「色」について、その傾向および選定のポイントについて解説していきたいと思います。この章を読めばきっとロゴの色決定に迷うことも少なくなるでしょう。
まずは会社ロゴにおける色の傾向についてです。よく目にする著名な会社のロゴを俯瞰・分析することで、どういった色がどのように使われているかを見ていきたいと思います。
◆会社ロゴは「赤」と「青」がスタンダードカラー
2章で紹介した上記「Best Japan Brands 2025 Rankings」に挙げられたロゴの色を見てみると、以下のような傾向が見られました。
赤系統主体 33社
青系統主体 29社
緑系統主体 9社
無彩色系統 13社
その他・複数色 16社
最も多かったのが赤系統主体の会社ロゴ、次いで青系統主体が多く見られました。緑や無彩色も一定数見られましたが、赤や青に比べると圧倒的に少ない数となっています。こうして見ると赤の会社ロゴと青の会社ロゴで全体の約6割を占めていることが分かります。
ここで会社ロゴの色に関する特徴的なエピソードをひとつ紹介したいと思います。赤い「スリーダイヤ」のロゴで有名な三菱グループですが、実は以前は現行の赤のロゴに加え、青のロゴも使われていたダブルスタンダードの時代があるのです。
現行の赤いスリーダイヤのロゴの歴史は明治の初期まで遡ります。創業者である岩崎弥太郎が、三菱創業時の九十九商会が船旗号として採用した三角菱がスリーダイヤの原型です。その後時代を経て1985年、企業イメージの向上を目的に三菱はCI(コーポレート・アイデンティティ)活動を実施しますが、その際当時既に知名度の高かったスリーダイヤのロゴは海外向けに使うことが定められ、日本国内用には青の「MITSUBISHI」のロゴ(ロゴタイプ)が作られました。その後海外用の赤いスリーダイヤのロゴ、国内用の青のMITSUBISHIのロゴのダブルスタンダードはしばらく続きますが、2014年に海外・国内での使い分けを止め、赤いスリーダイヤのロゴに統一されることになったのです。(参考文献:三菱自動車、三菱電機)
このように、日本のトップ企業が選択したロゴの色もやはり「赤」と「青」で、会社ロゴと言えばこの2色がスタンダードカラーとして考えられていることが窺えます。
◆同業だと同じ色を使おうとしない
同じ業種、同程度の規模・知名度の会社であるほど、会社ロゴを同じ色にはしたがらないものです。「〇〇の色の会社といえば」といったイメージの話ももちろんありますが、同業のロゴが同じ色だと紛らわしくという理由もあるからでしょう。
その顕著の例としてまず挙げられるのが航空業界の会社ロゴです。大手2社である日本航空(JAL)は赤、全日空(ANA)は青という色のイメージが定着していると思いますが、その他の航空会社のロゴも実は色が被らないようにデザインされています。国内線で一定の知名度がある航空会社8社のロゴの色を見てみましょう。
・日本航空(赤)
・全日空(青)
・スターフライヤー(黒 or 白)
・スカイマーク(紺色+黄)
・AIR DO(水色+黄)
・ソラシドエア(緑)
・ピーチ(赤紫)
・ジェットスター(オレンジ)
このように、前節で解説したスタンダードカラーである赤と青は大手2社が使っており、第3極と呼ばれるスカイマーク・AIR DOは2色使い、ソラシドエアとスターフライヤーは単色だがやはり大手2社とは異なる色を採用しています。またLCCと呼ばれる格安航空会であるピーチ、ジェットスターも同様に異なる色としていることが分かると思います。
航空会社の場合、空港という同じ場所でロゴが掲示されるシーンも多くあることから、同じ色をより採用したがらない傾向が強いものと思われます。同じ場所で同業種のロゴがある場合など、一目で認識できる「分かりやすさ」がデザイン上最優先となる場合、色は同じにしない傾向が強くなっていくのです。
またこれと同様な例として挙げられるのが銀行です。メガバンク3社のロゴの色を見てみると、スタンダードカラーある赤は三菱UFJ銀行、青はみずほ銀行、そしてそのどちらでもない緑は三井住友銀行が採用しています。銀行も航空会社同様、ATMなど同じ場所でロゴが掲示されるシーンが多く、やはりできるだけ同じ色を採用したがらない傾向があると思われます。
◆業種によっては色が似通ってくるケースもある
しかし、同じ色の会社ロゴばかり見られる業種も少ないながらあります。たとえばsynchlogoが制作を担当した薪ストーブメーカーの会社ロゴでは、同業界の競合会社ロゴを調査した結果、下の一覧のようにそのほとんどが黒・オレンジ・赤の単色もしくは複合色でロゴが作られていることが分かりました。火を扱うこと、そして火に関する商品提供がメインであることからそういった色の傾向になるのでしょう。
この例より、事業の内容や会社としてアピールしたいポイントが業界内で差別化することが難しく、提供する商品やサービスの内容や質で勝負せざるを得ない場合においては、会社ロゴの色が似通ってくる場合もあることが分かると思います。水を扱うことがメインの業界なら水色や青の会社ロゴが多いですし、植物を扱うことがメインの業界なら緑や黄緑の会社ロゴが多いことは容易に想像がつくと思います。
こういった場合、あえて通例となっている色を使わず、そこで差別化を図る会社ロゴの作り方ももちろんあります。しかしそのような会社ロゴの作り方をすると、業界らしくない、誤解を感じさせてしまうなどのリスクを背負ってしまうことも大いに考えられます。その時は色で違いを作ろうとせず、前章まで解説した「形」の部分で特徴的なデザインを目指すようにした方がよいでしょう。
次は、会社ロゴの色を選ぶポイントについてです。前節の分析結果を踏まえつつ、実際に色の選ぶ時に気を付けるべきことや、参考にした方がよい考え方などを紹介していきたいと思います。基本的に色は好きなものを選んでも良いと思いますが、これを読んでおくとより効果的な色選定を行うことができると思います。
◆使用してはならない色というのがある
色については、ロゴデザインの世界では知られていても、一般の方はなかなか知らない「使用してはいけない色」というものが実は存在します。
その有名な例をひとつご紹介いたしましょう。医療関係の会社ロゴや、安全・防護に関係する会社ロゴでは「十字」マークをモチーフに用いたデザインが多く見られまると思います。しかしこの十字マークを赤くして使用する「赤十字」については、世界最大の人道支援のNGOである赤十字に関係のある活動にしか使用を許されていないというのは、意外と知られていないのではないでしょうか。
残念ながら日本ではこの赤十字マークが色々なところで使用されているのを見かけますが、実はこの白地に赤い十字のマークは、世界最大の人道支援のNGOである赤十字に関係のある活動にしか使用を許されていないマークなのです。これはジュネーブ条約や日本国内では『赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律』、『商標法』などの国内法によって厳密に定められています。ですから、このマークが薬箱や赤十字以外の病院やクリニックの看板、あるいはレスキュー隊のユニフォームなどに描かれていれば、それらは全てジュネーブ条約違反なのです。
引用:日本赤十字社
また数は少ないながら、日本でも「色彩商標(色彩のみからなる商標)」と呼ばれる商標が存在します。以前の日本の商標法では文字、図形、文字と図形の組み合わせ、立体物しか商標と認められませんでしたが、2015年の法改正によって、音、色等も登録対象になったのです。著名な登録例を紹介すると、第5933289号のセブンイレブンと登録番号第5930334号のトンボ鉛筆の商標です。登録前から非常に知られているカラーパターンで、その認知度の高さも登録に寄与したのではないかと言われています。また、この配色を他社がロゴに使うことは当然できません。
しかしここで挙げた例のように、見慣れた色、どこかで見たことのある色などを会社ロゴに使ってしまうことは実は少なくありません。風格や権威性を帯びた色とはそういったものですから、無意識に選んでしまうこともあるのです。しかし法的に認められていない配色はトラブルを招く原因にもなることから、自社のカンパニーカラーとなる会社ロゴの色は慎重に検討するようにしましょう。
◆関係性があることを示したい時は同じ色を使う
一方例外的に他社と同じ色を積極的に用いることがあります。それは両社がグループ会社や関連会社である時です。異なる会社でも両社に何らかの関係性があることを示すには、むしろ積極的に同じ色を会社ロゴに使っていくべきでしょう。たとえその会社のロゴが独自の個性的な形をしていたとしても、色を同じにしていれば、何らかの関係がありそうなことに気付いてくれると思います。
その例として、東京ガスグループの会社を見てみましょう。下に示した5社のロゴのデザインは全く異なるものですが、赤と青の2色を統一しただけで、一目でグループ会社であることが感じられるようになっています。
このようにロゴの形は異なっていても、配色を同じにすることで同じグループの会社であることが示せるようになります。同じグループの会社でも、事業領域が異なる場合などはこのやり方が有効にはたらくでしょう。
◆ロゴの形は変えず色を変えて関係性を示すこともある
上記とは逆に、色はそれぞれの会社で異なるけれど、ロゴの形を同じにしてグループ会社や関連会社などの関係性を示す場合もあります。例として挙げられるのはJRグループやNEXCO各社です。これらの会社ロゴは管轄するエリアによって色が変えられており、それぞれのエリアの特徴などに由来した色でデザインされています。それではNEXCO3社のロゴの色の由来を見てみましょう。
・NEXCO東日本(ネクスコ・グリーン):東日本・北日本の安息を感じさせる自然をイメージした、深みと明るさのある緑色。
・NEXCO中日本(ネクスコ・オレンジ):中部日本エリアの活発なにぎわいをイメージした、力強くいきいきとしたオレンジ色。
・NEXCO西日本(ネクスコ・ブルー):西日本・南日本の海と空の明るさをイメージした、鮮やかで清潔感のある青色。
このようにロゴの形は同じでも、全く似ていない色とすることで同じグループでも会社は異なることが示せるようになります。会社ロゴにファミリー感を出したい時に有効にはたらく手法です。
ここまでは一般的な会社ロゴの作り方について解説してまいりましたが、会社ロゴを作るためにはブランディングを意識して制作していく必要があります。会社ロゴに必要な「信頼感」とは見た目の良さのことだけではなく、会社として戦略的にどうイメージを社会に伝えていくか、どのように会社を見てもらえるようにするかなど、見た目の奥にあるブランド感も大切になってくると思います。しかしそのブランド感は簡単に作り出せるものではなく、ロゴの制作プロセスでどのようなことを行っていくかに懸かっているのです。
そこでここでは、本当に信頼感ある会社ロゴを作るための、ブランディングを意識したロゴ制作過程とはどのようなものなのかについて紹介したいと思います。以下、その実際の制作過程について順を追って解説してまいります。
STEP1|ブランド調査
会社ロゴではまず前提として、そのロゴを発表することでどのように世の中に影響を与えるか、どのようなはたらきをするかなどを事前に予測、コントロールしながら作ることがあります。その主な方法として、ロゴの検討を行う前にブランディング戦略(CI:Corporate Identity)の立案を行うことが挙げられます。
CIとは、会社の理念や姿勢を体系的に整理し、統一した会社イメージの構築を目指す概念のことで、ヴィジュアルのイメージの統一(VI:Visual Identity)、理念の統一(MI:Mind Identitity)、指針の統一(BI:Behavior identity)の3つの柱で成り立っています。このうち会社ロゴはVIの中に位置付けられ、デザインの方向性やどんなモチーフを用いてロゴデザインするかなども、VIの考え方に基づいて設定されていくことになります。
ブランディング戦略ではまず市場におけるブランドの位置を把握するための調査を行います。対象となる市場と顧客を調査するのですが、必要に応じて消費者行動モデルのフレームワークを活用したアンケートなどを実施します。市場でのポジショニングや顧客のニーズを確認することで、競争相手や顧客のニーズなど、ブランディングに必要な課題を知ることができるようになります。
STEP2|MIの設計
会社ロゴを作る上で欠かせないのがこのMIです。理念の統一を図ると、会社の価値観とはどういうものかを方向付けることができるようになります。MIではミッション(果たすべき使命)、ヴィジョン(実現したい未来)、バリュー(提供できる価値)、スピリット(大切にする精神)、スローガン(合い言葉)を定めることが多く、近年会社紹介としてコーポレートサイト等に掲げていることもよくあります。なおこれらは経営者だけで考え、決定すべきではではなく、社員やスタッフ、関係者などと一緒に設計していかなければ意思統一されたものを定めることはできないでしょう。
STEP3|市場・競合相手のVI調査
会社が属する市場や同じ業界、直接の競合となる相手のVI調査を行います。掲げているデザインコンセプトやコーポレートカラー、またヴィジュアルのベースにしているモチーフやキャラクターなど、ヴィジュアルに関するものをあらゆる視点から調査することが重要です。
この調査の目的は、明快な差別化をどう行うかを知るためであり、その結果によってはデザインの方向性がこの時点である程度絞られることもあります。
STEP4|MIのヴィジュアル化方針検討
上記のVI調査を踏まえた上で、自社のMIをどうヴィジュアル化していくかを検討します。MIで言語化された内容が多い時は、その全てをヴィジュアル化することは難しいため、その取捨選択もこの工程で行わなければなりません。社会や顧客に対して伝えたいメッセージや、会社のシンボルとすべきものは何か、どのような雰囲気でイメージを構築していくかなど、吟味を重ねて絞り込む必要があります。
また、ここで定めたヴィジュアル化方針は「トンマナ(トーン&マナー)」となり、ブランドイメージやブランドカラーとして、ロゴだけでなくVIに基づき作られる様々な制作物にも展開されていきます。よってVIのトータリティを損なわないためにも、ロゴも例外なくこのトンマナは必ず守るべきルールだと認識しておく必要があります。
STEP5|ラフ案の作成
MIのヴィジュアル化方針をもとに、いよいよロゴのラフ案を作っていきます。ラフ案作成で大切なことは、様々な角度から、あり得るデザインの可能性をできるだけ多く探ることです。イラスト作成ソフトでも、ペンタブを使ったスケッチでも、紙に手描きでも、方法は制作者によって異なりますが、限られた時間でできるだけたくさんの案を作り、どの方向性のデザインが求めている会社ロゴに相応しいか考えていきます。
またここまでの工程と同様に、ラフ案をつくる上でも企業とデザイナーがコミュニケーションを取りながら進めることが重要です。完成形に近いデザイン提案をジャッジするのではなく、ラフ案の段階でどんなデザインの可能性があり得るかを共有しておくことで、より密度の濃い検討ができるとともに、デザイナーが思いつかないような有益なアイデアが生まれることも少なくありません。クリエイティブな工程に進むほどデザイナーに任せる部分はおのずと増えてきますが、会社が積極的に検討に関わることで、より上質なロゴの完成に近づいていくでしょう。
STEP6|デザイン提案の作成
ラフ案の中から可能性を感じる数案を選定し、提案できるよう仕上げていく工程です。まずラフ案から提案候補をどのように選ぶかについてですが、できるだけデザインの方向性が際立っている、異なる方向性のものを選びます。会社ロゴは初回のデザイン提案で決定するようなことはまずなく、何度か提案を重ねることが当たり前です。ですので初回の提案では、どのデザインの方向性で進めるかを決めるくらいの意識で提案されることが通例とされています。
また、デザイナー一推しのデザインが良いデザインであるとも限りません。そのデザインのポイントが、デザイナーの主観的なものであったなどということも少なくありません。会社に相応しいロゴデザインを客観的に判断するというのはプロのデザイナーでも難しく、そのためあらゆる方向性のデザインを、あらゆる価値観を持った人達によって比較した上で決めていきます。
STEP7|提案・プレゼンテーション
作成したデザイン提案をプレゼンテーションし、デザイン案について意見や感想を交換する工程です。会社ロゴの場合、デザインの最終決定者は経営のトップ、もしくは役員会など複数の人からなる経営陣であるため、どのような提案内容にするかはクライアント会社の担当者と協議しながら決定します。
プレゼンテーションは、デザイナーがデザインの最終決定者に直接行うこともあれば、提案資料を送付し、クライアント会社の担当者が行うこともあります。またプレゼンテーションの方法は、紙の資料を用いるやり方、PCを使ったスライド形式で行うやり方など様々です。クライアント会社に合ったやり方を考え、最適な方法で行うことが求められます。
STEP8|ブラッシュアップ
この工程では、プレゼンテーションで得られた意見や感想をもとに、選定されたデザイン案のブラッシュアップを行っていきます。プレゼンテーションでは1つの案のみ選定されることが望ましいですが、引き続き比較検討する目的で複数案選定されることもあります。その際は各案ごとに意見や感想をもらっておき、それぞれに合った方向で修正・調整を行うようにするのが一般的です。
具体的なブラッシュアップの例としては、形の調整や配色バランスの見直し、またデザイン提案作成時に詰めなかったディテールもここで検討します。ブラッシュアップ後のロゴは即決定案となりますので、基本的にはそのまま世に出ても問題ないよう完成形を目指して制作が行われます。
またVIで作る他の制作物との調整もここで行います。ロゴは、ほとんどの制作物で使われるため、サイズやプロポーション、視認性・使い勝手など、様々なシチュエーションの想定・検証を行うことで、よりトータリティのあるVIへと仕上げることができます。制作物ごとにデザイナー・制作者が異なる場合は、よりしっかりとそれを行う必要があり、密なコミュニケーションを要することになります。
STEP9|完成・納品
プレゼンテーションとブラッシュアップの工程を何度か繰り返し、クライアント会社の承認が得られると完成となります。このトライ&エラーの回数は案件の内容や性格にもよりますが、一方だけでなく、クライアント会社とデザイナー双方が納得できる結果になって、はじめてその企業に相応しいロゴの完成となります。双方が納得できるデザインが出来上がるまでにはかなりの時間と労力を要しますが、ロゴはVIで作成する制作物の中で最も長く使うものですので、根気強く検討し続けることが求められます。
そして制作したロゴの納品となりますが、現在ほとんどの場合、ロゴはデータで納品されます。そのデータは用途を想定し、どのような用途でも対応できるよう、様々なファイル形式に変換し準備することが求められます。特に近年はWebやSNSが手軽に扱えるようになったことから、印刷物用のデータだけでなく、それらに適した画像系のデータを複数納品することも珍しくありません。
STEP10|商標出願・登録
ロゴは、会社がその権利を有する知的財産の代表的なものですので、完成したロゴを商標出願・登録するケースも少なくありません。ロゴを法的に守ることで、安心して使用することでき、無断で他人に使用されることが阻止できるようになります。社会的影響の大きい会社ほど商標の出願・登録をしておく必要性は高く、ロゴ制作の着手前から出願・登録することが決まっている場合は、それを見越した制作を行う場合もあります。
なお商標の出願・登録に関する検討・手続きには専門的な知識・ノウハウが必要で、弁理士と呼ばれる有資格者が行うことが一般的です。ロゴ制作者は適宜ロゴ制作での諸情報を弁理士に提供することが行われます。
会社ロゴのほとんどは会社設立と同時に作られますが、その時作ったロゴをずっと使い続けるかどうかは会社の考え方次第です。一般的に会社ロゴは創業時の記憶・起業のシンボルという特別な存在であるため、リニューアルすることに躊躇いを感じてしまうものです。そうしてなかなか変えられずにいると、起業時のロゴのイメージが世の中に定着してしまい、さらにリニューアルしづらくなってしまいます。
もちろん長く使うことができる「永続性」を備えたロゴは、ロゴデザインとして評価されるものです。しかし同じロゴを使い続けるのが会社にとって良いことだと一概に言い切れるものでもありません。
そこでここでは、ロゴのリニューアルについて、世の中の会社はどのように考え、どのように対応しているかを俯瞰していきたいと思います。それによって自社の会社ロゴを、時間の経過とともにどのように扱うべきかきっとヒントが得られるでしょう。
まずは創業から長い年月が経った老舗企業の会社ロゴを見てまいりましょう。「老舗」の定義は特にありませんが、ここでは創業から100年以上続いている日本の企業を取り上げたいと思います。
ひとつめの例として挙げるのは大手百貨店グループの髙島屋のロゴ、通称「マルタカマーク」です。
マルタカマークは、江戸時代後期の天保2(1831)年に京都で古着木綿商を創業した際に作られたもので、現在でも同企業のシンボルとしてそのまま使われています。デザインは左右対称なのが特徴で、旗などに描いた時、表から見ても裏から見ても同じものとして見えるように意図されたデザインだと言われています。
ちなみにこのマルタカマークは明治37(1904)年に商標登録もされています。なお大手百貨店は比較的創業当時のロゴをそのまま使う傾向があり、そごうや松阪屋なども同じ例として挙げられます。
ふたつめに化学メーカーの花王のロゴを取り上げましょう。こちらは髙島屋のように創業当時のロゴをそのまま使っているのではなく、何度かデザインをリニューアルしている例になります。
花王の創業は1887年、創業者・長瀬富郎が洋小間物商・長瀬商店を設立したのがはじまりです。最初にロゴが作られたのは1890年で、長瀬商店で扱っていた輸入品の鉛筆に月と星のマークがあり、これをヒントに富郎自身がロゴを考案し、「美と清浄を象徴したマーク」としたそうです。
しかしこの創業時のロゴは50年後に大きくデザインが一新されます。右向きだった月の顔が左向きに変わり、ヴィジュアルもシンプルになりました。顔の向きが変わったのは、これから満ちていく左向きの月の方が縁起がよいという考えからだそうです。そしてその後も5年から20年ほどのスパンでロゴのデザインは変更されていきます。現在使われているおなじみの月のマークは1985年に登場し、以降マークは変えられずに使われています(ロゴタイプはその後も変更がありました)。
このように、創業当時の会社ロゴをそのまま使う老舗企業もあれば、頻繁にデザインをリニューアルし続けてきた老舗企業もあり、一概にどちらが良いという訳ではないようです。しかし一つ言えるのは、歴史や伝統を重んじることをアピールしたい企業は創業当時のロゴをそのまま長く使い、時代や流行に敏感であることや、企業の中で何かしらの変革が起こったことをアピールしたい企業は、その時代のトレンドを見ながらデザインを変えているのであろうと推察されます。百貨店という業種は歴史の重みが企業として大きな付加価値になりますし、化学メーカーは現代の技術や流行を追わなければならない業種です。このように業種によって会社ロゴのあり方に対するスタンスは異なってくるものと考えられます。
冒頭でも述べましたが、会社ロゴは創業時の記憶・起業のシンボルであるため簡単にリニューアルできるものではありません。また会社ロゴは広告・宣伝やビジネスツールをはじめ様々なところで使われており、いざリニューアルするとなると、ロゴを使っているそれら全てのものを見直さなければならず、大変な作業が発生することを覚悟しなければなりません。したがって何らかの目的やきっかけがなければ、会社ロゴのリニューアルなど普通は行わないものです。
そこでここでは会社ロゴをリニューアルした企業を対象に、どのような目的やきっかけでリニューアルを行ったか、その事例を調べていきたいと思います。
①社名変更に伴うリニューアル
まずご紹介する事例は、2024年10月に社名変更が予定されているカナデビア株式会社(旧社名:日立造船株式会社)です。同社は既に日立グループからは離れ、造船事業からも撤退していたことから、社名と事業が乖離した状態が続いていました。ちなみに新社名のKanadevia(カナデビア)は、“奏でる”(日本語)と “Via” (Way/道・方法という意味のラテン語)による造語とされています。
【カナデビア株式会社のロゴコンセプト】
引用:新社名「カナデビア株式会社」のシンボルマーク(ロゴ)が決定
シンボルマークのデザインは、新社名と同様にブランドコンセプト「技術の力で人類と自然の調和に挑む」から導いており、「カナデビア株式会社 / Kanadevia Corporation」と同じく使用開始は2024年10月1日からです。
デザインのコンセプトは以下3点です。
1.「a」「 d」「 e」を構成している正円はゆがみがなく完全な形を意味しており、ブランドが培ってきた高い技術力を表しています。その正円によってデザインされた「a」「 d」「 e」の3文字は、シンボルマークにリズムを⽣み出し、力強さ・優しさの双⽅を印象づけるデザインです。
2.シンボルマーク全体にグリーンとブルー2⾊のグラデーションを使用することによって、人類と自然の調和を美しく表現しています。グリーンは「人類を含む自然」、ブルーは「地球」と「テクノロジー」を表しています。
3.ブランドコミュニケーションの展開では、テーマや使用される画像と調和したグラデーションで、多様性ある表現を作り出すことができます。
また同じく社名変更に伴い会社ロゴをリニューアルした例として、SCデジタル株式会社の例をご紹介します。2023年に「SCデジタルメディア株式会社」から社名が変更された時にリニューアルされていますが、こちらはartience株式会社のロゴとは異なり、名称の綴りそのものが一新された訳ではないため、社名変更がロゴリニューアルのきっかけになったというケースです。
【SCデジタル株式会社のロゴコンセプト】
引用:コーポレートサイト及びロゴリニューアルのお知らせ
新ロゴのコンセプトは「C × D」をモチーフにしたロゴデザインです。「C」は「カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience/CX)、「D」は「デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation/DX)」。 間にある「×」は 2つが掛け合わさることで、無限(∞)の可能性が生まれることを表現しています。 さらに「×」の図形が枠から飛び出すことで、SCデジタルの独創性やチャレンジ精神を込めています。
②周年に伴うリニューアル
次にご紹介する事例は、2019年にロゴをリニューアルした戸田建設株式会社です。このロゴリニューアルは140周年事業の一環として進められ、デザイナーだけでなく戸田建設グループ社員およびその家族からもロゴ案を募集し作られました。
【戸田建設株式会社のロゴコンセプト】
引用:戸田建設グループ ロゴマークを制定!
ロゴマークのデザインコンセプトは「Orchestrating Innovation」で、多様な図形(=個性・アイデア)の集合体によって「戸田建設」の「戸」を形成し、新しい価値が生まれてくる期待感を表現しています。また、漢字の「戸」をモチーフとしたことによってオリジナリティを高めるとともに、日本発のグローバル企業に向けてクオリティやホスピタリティなどの感性価値を大切にする意志を込めています。
同じく周年を機に会社ロゴがリニューアルされた事例として、2015年に変更された株式会社安川電機のロゴをご紹介いたしましょう。同社は100周年という節目にあたり、真のグローバル企業への進化と更なる成長を目指すべくグループ共通のロゴの刷新を行いました。
【株式会社安川電機のロゴコンセプト】
引用:創立100周年を機にコーポレートロゴを刷新
YASKAWAの信頼感、安定感を表現するシンプルな中でも視認性と可読性の高さを実現する大文字を使ったワードマークです。しなやかな曲線は、人間らしさをイメージさせ、お客様に寄り添い、様々な課題に応えていくYASKAWAの従業員の柔軟性や創造性を表現しています。また、全体的にたおやかに上方へ伸びゆく曲線で、世界へとビジネスを拡大させていくYASKAWAの意志や将来性を想起させています。
③経営統合に伴うリニューアル
複数の会社が経営統合を行い、新しく誕生した会社のロゴへとリニューアルする事例もあります。マルハニチロ株式会社は、水産物のグローバルな調達に強みを持つ株式会社マルハと、食品の開発に強みを持つ株式会社ニチロが一体となり、機能の相互補完を行いながら規模の拡大と生産や販売体制のさらなる効率化を実現し、新たな事業領域の創出を目指し2007年に経営統合がなされました。
【マルハニチロ株式会社のロゴコンセプト】
引用:経営統合のお知らせ
新しい商標は、マルハの「M」とニチロの「N」、2つの波をパターン化してデザインされております。2つの波が共鳴しあい、伝統をベースにしなやかに変化しながら、食の世界に新しい波を起こしたい、世界中においしさをお届けしたいという願いをイメージし、新生「マルハニチロ」の躍動感と生命感を表しております。
また航空業界では、「北海道の翼」の株式会社AIRDOと「九州・沖縄の翼」の株式会社ソラシドエアによる株式会社リージョナルプラスウイングスが2023年に設立されました。社名には、「地域(リージョナル)に寄り添い続け、"北海道の翼""九州・沖縄の翼"の2つの翼(ウイングス)で、新たな需要と価値を創出(プラス)する」という想いが込められています。
【株式会社リージョナルプラスウイングスのロゴコンセプト】
引用:グループロゴのコンセプト
2つの航空会社の協業によるシナジー効果の大いなる可能性を「無限大∞」で表現したデザイン。北と南の空の軌跡がつながり、Rを囲みひろがっていく姿は、地域と共に持続的に成長・発展していくリージョナルプラスウイングスを象徴。その先に輝くプラスは、新しい価値の創出(プラス)と共に、未来へ飛躍する航空機も表現しています。カラーは、2社のブランドイメージカラーを融合し、共創のハーモニーを訴求します。
④買収・売却に伴うリニューアル
企業が他社から買収されたり、他社へ売却されたりし、経営の資本・体制が変わったほとんど場合でロゴがリニューアルされます。現在、ホームセンター・雑貨店を展開する株式会社ハンズは、元々東急不動産ホールディングスの傘下にあった株式会社東急ハンズが経営していましたが、2022年に株式会社カインズに買収され、経営体制が変わりました。買収後、ブランドカラーは踏襲されましたが、ロゴをはじめとする様々なデザインは一新されました。
【株式会社ハンズのロゴコンセプト】
引用:ハンズのロゴが新しくなりました!
ハンズのブランドリニューアルに合わせて刷新したロゴマークは、 原点である「手」がモチーフ。日本発のグローバルなメッセージとして、 あえて漢字を使用したのが特徴です。一方で、過去を継承しつつ未来に向けてアップデートをしていく という想いから、ブランドカラーは 従来の「ハンズグリーン」を 踏襲しています。さらに端部をつなぎ合わせ、途切れることの ない「一筆書き」でしたためました。
また会社ロゴが売却先のロゴに変更されるケースもあります。現在は株式会社ミライト・ワンの子会社である西武建設株式会社は、社名にもある通り元々西武グループの企業でしたが、2022年に株式の95%が譲渡されミライト・ホールディングスの連結子会社となりました。その際ロゴも変更され、西武建設の社名は残りつつも、売却後はミライト・ワンのシンボルマークが冠されるようになりました。
【ミライト・ワングループのロゴコンセプト】
引用:西武建設株式会社 新コーポレートロゴについて
ミライト・ワングループのロゴマークは「未来への扉」です。一人一人の社員が様々なパートナーとともに新たな挑戦を行うことを通じて、「ワクワクするみらい」を切り開く姿を象徴したものです。開かれた扉は、同時にMIRAIT ONEの「M」を形作り、その真ん中にはローマ字の「1」(ONE)が隠れています。また、上下に事業の広がりを感じさせるアークを表現しています。コーポレートカラーも信頼性と先進性を感じさせるMIRAIT ONEブルーを採用しています。
⑤グローバルブランド構築に伴うリニューアル
海外進出、事業のグローバル化に伴い、日本国内だけでなく世界でも共通で使えるロゴとするためにリニューアルする例もあります。味の素グループは1909年の創業以来積極的に海外展開を進め、世界30の国・地域で事業を展開していましたが、海外でのブランド認知率向上、“言語を超えた”シンボル創造を目的に、2017年にグローバルロゴを発表しました。
【味の素グループのグローバルロゴコンセプト】
引用:せかいでつかう“グローバルロゴ”が、できたんダ。
“味の素(Ajinomoto)”は、“味のもと(Essence of Taste)”→“おいしさのもと(Essence of Umami)”を意味するものです。“A”には、無限大∞を組み合わせることで、“味(Aji)”を追究し、極め、広めていく意志と、“アミノ酸(Amino acid)”の価値を先端バイオ・ファイン技術で進化、発展させる意志、さらに地球の持続性を促進する意志を込めています。“A”から“j”にかけての流れるラインは人の姿を表し、味とアミノ酸の“A”に人々が集まり(Join)、料理や食事、快適な生活を楽しむ(Joy)ようにという思いを込めています。そして、“j”の下から右上に伸びているラインは、味の素グループが未来に向けて成長、発展していくことを表しています。
他の事例として、古河電気工業株式会社でも2013年にグローバルロゴが発表されています。同社は、グローバル市場にFURUKAWAブランドの存在感をアピールしていくとともに、グループの一体感を醸成するため、このロゴを作成し共有していきました。
【古河電気工業株式会社のグローバルロゴコンセプト】
引用:グループ・グローバルロゴマークを新設
グループ・グローバル経営の新体制発足にあたり、1877(明治10)年に古河グループ創業者の古河市兵衛が定めたヤマイチマーク(注1)で「伝統、日本」のイメージを世界に向けて発信し、一方で社名のフォントをよりスマートなデザインに変え、「技術革新の伝統を継ぎながら、時代の求めに柔軟に応えて世界で貢献する」という社会との約束を表現しました。
(注1)元々は、古河市兵衛が明治10年に長年営んできた生糸業を廃し、鉱山業に専念することを決意した時に作られたマークです。その信条は「鉱業専一」と言われ、その後、足尾銅山を日本一の銅山にまで発展させました。当初からさまざまな技術革新で成長し続けてきたことから、転じて現在では、技術革新のトップリーダーとして社会に貢献していくことを志向しています。
尚、古河電工としてはヤマイチマークを1929(昭和4)年に商標登録しています。
このように会社ロゴのリニューアルは、部屋の模様替えや髪の毛を切るような気分転換で行われることはあまりなく、前章で示したように、事業に関して節目が訪れた時や、何らかの変化が起きた時に行われるものだということが分かったかと思います。
また事業の節目や変化といったタイミングは、会社としてさらに前進する意思や決意を社会に広くPRするタイミングでもあることから、ロゴだけでなくCIやVIといったブランディングも積極的に取り入れたり刷新したりする例が非常に多く見られました。会社ロゴはそういったイメージチェンジの「顔」となる存在ですので、やはりブランディングにおいて重要な位置付けにあると言っても過言ではないでしょう。
企業ロゴ・会社ロゴを作る際、最も注意しなければならないのがこの「デザインの類似」です。
ロゴにおけるデザインの類似といえば、各メディアが大きく取り上げた、2020年東京オリンピックロゴの件が記憶に新しいところでしょう。ロゴデザインの類似は、それまではデザイナーや商標を扱う弁理士など、各専門家の間でしか話題にならなかったようなことですが、この件を機に、多くの人が関心を持つようになりました。当サービスsynchlogoにおいても、ロゴの類似を気にするお客様からの、「商標ロゴ制作サポート」への相談が年々増えている状況です。
会社ロゴは、完成させて一度世に出してしまうと、すぐに変更する訳にはいかない代物です。万が一「デザインが似ている」などと指摘されると、ブランディングへの影響どころか、企業としての信用に関わることも考えられます。
そこで本章では、企業ロゴ・会社ロゴにおける「デザインの類似」について、企業はどのように向き合っていくべきかを考察していきたいと思います。
いわゆる「盗作」は別として、意図せずロゴのデザインが似てしまうのは、実はしばしば起こりうることです。特に企業ロゴ・会社ロゴは、商品ロゴやサービスロゴなどに比べ、元々デザインが類似してしまいやすい性質があります。ここでは、その性質とは何かを整理してみたいと思います。
性質①:普遍的なデザインを求めがち
ロゴはデザインの独創性に価値があると言われています。しかし、前章の最後でも述べた通り会社ロゴは特殊で、普遍性と独創性のバランスを考えたデザインをしなければならないのです。
他社ロゴとの差別化だけを狙い、独創性のみのことだけを考えてよければ、デザインの類似などとは無縁なデザインになっていくでしょう。しかし、多くの人から受け入れられやすい、普遍的なデザインの方向に寄れば寄るほど、独創的なデザインからは離れていき、どうしても他のロゴデザインとの共通点が出てきてしまう訳です。
この性質が顕著に表れている例として、PayPay株式会社と株式会社ビックカメラのロゴの例をご覧いただきましょう。ちなみにこれらのロゴの類似性については、インターネットやSNSでも多くのコメントが散見されています。
【PayPayとビックカメラのロゴの共通点】
・企業ロゴが事業のブランドロゴを兼ねている
(PayPayはキャッシュレス決済のサービスロゴ、ビックカメラは家電量販店のショップロゴ)
・シンボルマークのモチーフがイニシャルのアルファベット(「P」と「B」)
・赤の背景に白のイニシャル図形の配色
・イニシャル図形の字体
・イニシャル図形の一部が背景の輪郭外側まで伸びている
以上のように、多くの共通点があるため、デザインが類似していると認められるのだと思います。
どちらも、デザインに普遍性を持たせるために、イニシャルというモチーフ設定を選択したのだと考えられます。また、さらにこのシンボルマークは、PCやスマートフォンのアイコンなど、様々な場所で汎用的に使えるようにするという「用途に対する普遍性」も求めていたのでしょう。それによって、どんなサイズでロゴを使っても視認性が担保されるよう、大きさ・字体・配色などのデザイン方向性が重なってしまったのだと思われます。
徹底した普遍性を求めた結果、その答えが同じだった例だと言えるでしょう。
要因②:定番のデザイン様式を使いがち
これは、3章の「歴史・伝統」のテーマによるモチーフ設定で紹介したキッコーマンの「亀甲紋」をはじめとした伝統的図案もそうですが、長いグラフィックデザインの歴史の中で、ロゴにおいては、いくつか定番のデザイン様式なるものが作り上げられていきました。
分かりやすいところだと、下記の「詰め込み系」とも呼ばれることのある、様々な要素をある形の中にたくさん詰め込み、模様のように見せるというデザイン様式が例として挙げられます。
このロゴの作り方は、グラフィックデザイン業界におけるデザインの不文律の一つとなっており、あらゆるところで同様のロゴを見かけることから、既に様式化されたものと考えてよいでしょう。
また、「詰め込み系」のような全体のデザインではなく、部分的に共通した要素が使われるというデザイン様式もあります。その例として特に有名なのが、NIKEの「スウッシュ」です。
スウッシュ(swoosh)は、直訳すると、「(物体が高速に動く時の)シューッという音」とされていますが、グラフィックデザイン業界では、その高速に動くさまをデザイン化した図形とされています。
このスウッシュを単体で使っているのはおそらくNIKEだけですが、デザインの1要素として使っている企業ロゴ・会社ロゴは大変多く確認できます。ネットでちょっと調べただけですが、スウッシュを使い、なおかつ全体の印象もどことなく似ている例は、上記のようにすぐに複数社見つかりました。
こうした定番のデザイン様式を使うのは、既に多くの人が見慣れていて、確実に受け入れてもらえるというある種の「保証」があるためです。会社ロゴは、一度作ったらなかなか変えられないものですから、こうした「保証」をデザインに求めるのは自然なことではないかと思います。
性質③:CIが似ているためモチーフが同じになりがち
3章で、企業ロゴ・会社ロゴにおけるモチーフのルーツはCI(コーポレート・アイデンティティ)であることを考察しましたが、そのCI自体が似ているために、ロゴのデザインが類似してしまうというケースも少なくありません。
【各社のCI(抜粋)】
・株式会社ソラシドエア|空から笑顔の種をまく。
・第一石鹸株式会社|「毎日のキレイ」から、次々と笑顔が生まれるように。
・株式会社千趣会チャイルドケア|社会に「笑顔の連鎖」を生み続けたい
上記の例をご覧ください。色や形は少々異なりますが、どのロゴも「笑顔」をモチーフにしたデザインであることは一目で分かると思います。そしてこれらのロゴの会社が掲げるCIもすべて「笑顔」で構成されています。
ロゴデザイン同様、企業のCIも唯一無二なもの作り出すことはほぼ不可能です。CIのテーマバリエーションは既に出尽くしており、どの会社のCIも「どこかで見たことある・聞いたことがある」もので溢れています。
今の時代、ロゴにオリジナリティを出すためには、CIから独創的なものを考えなければいけないのかもしれません。
上記のように、企業ロゴ・会社ロゴの性質を考えると、偶然デザインが似てしまうのは仕方ない部分があるのかもしれません。ただ、きっと世間的には、やはり「デザインの類似=悪」の印象がつきまとってしまうでしょう。なぜなら、どんなに偶然の一致だと説明しても、どうしても「盗作」の疑惑が残ってしまうからです。
しかし、冷静に考えると、意図的にロゴのデザインを似せる理由は、上記のホシザキの事案に見られる、商業的メリットを狙ったものか、あるいは単なる嫌がらせか、そのいずれかしかないはずです。つまり、意図的にロゴのデザインを似せるという行為は、同じ業界でなければ意味がないということになります。よって、世間的に良い印象は得られないかもしれませんが、業界も違い、利害関係がなければ、もしデザインが似てしまったとしても、相手が許してくれるのであれば、さほど気にしなくてもよいと思います。
ここで、企業ロゴ・会社ロゴのデザインが偶然似てしまった時の理想的な対応例をご紹介したいと思います。
上記は、文具メーカーのマルマン株式会社と、作業関連用品及びアウトドア・スポーツウエアを扱う株式会社ワークマンのロゴです。シンボルマークを見ると、四角い輪郭、配色を区切る斜めの線、黒と黄色の配色など、共通点が多く、デザインが類似していると言ってよい例だと思います。
2社は異なる業界で、利害関係もないことから、デザインの類似を特に問題視はしていませんでした。しかしこの2社は、あえてロゴデザインの類似をアピールし、コラボキャンペーンを開催するにまで至ったのです。
同様な例は他にもあります。株式会社Mizkanのロゴと、豊田通商株式会社が展開するスポーツブランドAdmiral(アドミラル)も、ロゴデザインの類似に着目し、下記のようなコラボグッズを共創するに至っています。
こういったコラボレーションは、お互いにメリットや、縁・きっかけ、機運などがあって初めて実現する試みですから、ロゴが似ているからといって、どの会社同士でも行える訳ではないと思います。しかし、もし実現できると、良いブランディング効果が期待でき、双方にとってwin-winの結果となるでしょう。
また、これらの例より学べるのは、もし他社のロゴが自社のロゴと似てしまっていた場合は、時には割り切ったり、大らかに受け止めたりするのも大事で、そうすると企業としての器量や懐の広さが感じられるようになり、結果、信頼やイメージアップにつながるだろう、ということです。
偶然の類似、悪意ある類似を問わず、もし他社のロゴが自社のものと似ていて、それが自社に不利益を与えるようであれば、類似させた他社に対して、ロゴデザインの変更やロゴの不使用を求めるようになるでしょう。しかし、もしその要求に応じなかった場合は、不本意だと思いますが、法的手段に出ざるを得ないという状況になることもしばしばあります。
この法的手段ついて、ロゴは作成された段階で「著作権」という知的財産権によって元々守られるべき存在になり、それがデザイン類似の違法性を訴える論拠になると一般的には考えられていますが、その場合において、実は著作権はさほど当てにできません。なぜならロゴは、そもそも「著作物」として認められないケースがあるからです。
著作権法において「著作物」は以下のように定義されています。
【著作権法 第二条一号一項 著作物】
思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
(引用:著作権法
e-Gov 法令検索)
つまり、思想や感情の創作的表現がなされており、なおかつ文芸・学術・美術の範囲に属していない会社ロゴは、著作物として認められないのです。
ここで、ロゴが著作物として認められなかった有名な判例があるのでご紹介しいたしましょう。ビールなどの製造・販売するアサヒ飲料が原告となった、通称「Asahiロゴマーク事件(東京高等裁判所 平成8年1月25日)」です。以下がその原告のロゴと、類似として訴えられた被告のロゴ、そして、この件の対象ロゴをそもそも著作物として認めないとする判決文の一部抜粋です。
四 著作権に基づく請求について
1 著作権法は、著作物について、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(二条一項一号)と規定している。 ところで、言語を表記するのに用いる符号である文字は、他の文字と区別される特徴的な字体をそれぞれ有しているが、書体は、この字体を基礎として一定の様式、特徴等により形成された文字の表現形態である。いわゆるデザイン書体も文字の字体を基礎として、これにデザインを施したものであるところ、文字は万人共有の文化的財産ともいうべきものであり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであるから、文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは、一般的には困難であると考えられる。仮に、デザイン書体に著作物性を認め得る場合があるとしても、それは、当該書体のデザイン的要素が「美術」の著作物と同視し得るような美的創作性を感得できる場合に限られることは当然である。
(引用:裁判例結果詳細
裁判所 - Courts in Japan)
要約すると、「文字は万人共有の文化的財産であるため、Asahiのロゴに創作性を認めることは困難」だとして、著作物性がないと判断しているのです。また同時に、デザインされた書体に著作物性があると認めるのは、書体のデザイン的要素に「美術」と同等の美的創作性がある時に限る、としています。
では、著作物として認められるロゴについてはどうでしょうか。
その場合、「著作権侵害」として認められるには、以下2つの基準を両方満たす必要があります。
①類似性
既存の著作物に類似していること。ここでの類似とは、創作的表現が共通していることであり、アイデアやコンセプトといった表現でないもの、創作性がないものが共通していることについては含まれない。
②依拠性
既存の著作物を拠り所にすること。既存の著作物を知らず、偶然一致した場合はこれに含まれない。
つまり、ただ似ているだけ(①類似性だけ)、拠り所にしただけ(②依拠性だけ)ではダメで、自社のロゴを拠り所にし、その上で類似していると判断されて、初めて他社の類似ロゴを「著作権侵害」とすることができるのです。
ここで、著作物と認められても、ロゴの類似を訴えるのに、やはり著作権がさほど当てにならない例をもう一つご紹介いたしましょう。一つの裁判の中で、著作権侵害と認められた著作物、認められなかった著作物の両方があった判例(東京地方裁判所 平成26年10月30日)です。
上記2つの例のうち、上段が著作権侵害と認められたもの、下段が著作権侵害と認められなかったものです。
これらに対する判決文(抜粋)は以下の通りとなっています。
被告著作物②は,略正方形に縁取りした枠の中にひさごの葉,実及び巻きひげを配置したものである。葉は上方に3枚,枠を覆い隠すように描かれ,実は中央に左上から右下に斜めにぶら下がるように配置され,その右側に巻きひげが描かれている。被告著作物②は,ひさごの実を原告著作物②とほぼ同様に枠の中に描いた上で,原告著作物②の3枚の葉及び巻きひげを左右反転させた位置に配したものである。そして,葉については,いずれも外側(原告著作物②では右,被告著作物②では左)から白,黒,黒の順に並べられており,個々の葉の形状,大きさ及び葉脈の位置がほぼ同一であることに加え,上述した原告著作物②の表現上の特徴,すなわち,太い葉脈を持った複数の葉を白と黒で描き分ける点において共通している。 以上によれば,被告著作物②は,全体的な構図や素材の描き方も実質的に同一といってよいほど原告著作物②に酷似しており,原告著作物②を有形的に再製したものと認められる。
(引用:裁判例結果詳細
裁判所 - Courts in Japan)被告著作物⑤⑥は,配色を異にするが,いずれも構図の同じ招き猫を描いたものであり,枠はない。被告著作物⑤⑥の招き猫は,首から下の構図は原告著作物に酷似しているが,片方の前足を挙げている点,左肘,右肩及び左後足の3か所に斑点を付する点は,上記のとおり他の著作物にも見られるものである。他方,その頭部の描き方及び顔面の表情においては,原告著作物⑤とは大きく異なっており,耳は略三角形で小さく,頭頂部には斑点がある。また,目と口は笑っているかのように描かれており,ひげは左右に2本ずつある。 このように,被告著作物⑤⑥は,これに接する者に最も大きな印象を与える頭部の描き方及び顔面の表情において原告著作物⑤と大きく異なるものであるから,その複製に当たるということはできない。
(引用:裁判例結果詳細
裁判所 - Courts in Japan)
この判例からも分かるように、デザインが似ているからといって、必ずしも他社のロゴを「著作権侵害」で違法だと認めてもらうことができるとは限らないのです。
このように、著作権では自社のロゴをデザイン類似から確実には守れません。
そこで、法の下にて本気で自己防衛するためには、ロゴの「商標登録」を行うことをお勧めいたします。
「商標登録」という言葉ですが、一度は耳にしたことがあるのではないかと思います。ロゴやブランド名の横にRマーク(®)が付されているのが、商標登録されている証です。
まず「商標」についてですが、著作権と同じ知的財産権に含まれる権利の一つで「商標権」と呼ばれ、著作権と同列にある「産業財産権」のひとつとして分類されています(上図参照)。この分類は、該当する法律が異なることと同義で、著作権が「著作権法」という法律で保護されているのに対し、商標権は「商標法」という別の法律の下で保護されています。
また、著作権は、著作物を制作すると自動的に発生する権利であるのに対し、商標権は国(特許庁)へ登録してはじめて発生する権利です。なお、無事登録されると、登録者はその商標を日本全国で独占的に使用することができるようになり、権利を侵害する者に対しては、侵害行為の差し止め、損害賠償等の請求ができるようになるとされています。(参照:商標制度の概要
経済産業省 特許庁)
では、自社ロゴをデザイン類似から守るには、なぜ著作権よりも商標権の方がお勧めなのでしょうか?
それは、商標権侵害の主張に、著作権侵害の基準として紹介した「依拠性」が必要ないからです。
著作権上で、ロゴデザインの類似を訴える際、この依拠性の立証が非常に難しく、極端なことを言うと、訴えられた方は、「偶然似てしまった」と言い逃れすることもできてしまう訳です。
一方、商標権についてですが、依拠性は関係なく、偶然似てしまおうが、故意に似せてようが、商標として登録されたロゴに「類似している」と判断されれれば、使用の差し止めや損害賠償の請求を行うことができるようになるのです。
このように、商標権は非常に強力な権利ですが、1点注意が必要です。
それは、基本的に商標登録は「早いもの勝ち」の仕組みになっていることです。
例えば、ある日自社のロゴを商標登録しようと思い付き、特許庁へ出願したとします。しかし、そのロゴは、既に登録されている他社のロゴに類似していると判定され、登録することができませんでした。この時、自社のロゴが、登録済みの他社ロゴよりも明らかに先に作られたものだったとしても、基本的に結果は覆らないと考えられます(もちろん、悪意ある先行登録であった場合はその限りではない)。
つまり、先に登録してしまった方が権利を有するため、作成時期に関係なく、自社のロゴが類似と判定され、「商標権侵害」のレッテルまで貼られるおそれがあるということです。
ですので、もし他社ロゴの商標権を侵害していないか気になる場合は、ロゴを作成する際、その作成しているロゴの商標調査も同時に行った方が良いでしょう。既に商標登録されているロゴと類似していないかチェックしながら自社ロゴを作成することで、商標権侵害を未然に防ぐことができるようになります。
また、自社ロゴの商標登録を考えている場合にも商標調査は有効で、事前に類似ロゴがないか確認しておくことで、類似と判定された時のデザインのやり直しなど、出願後の手戻りを最小にすることができるようになります。
なお、当サービスsynchlogoでは「商標ロゴ」という、商標権取得に向けたサポートを含めたロゴ制作のプランがございます。企業ロゴ・会社ロゴの商標登録をお考えの方は、是非お気軽にご相談くださいませ。
会社ロゴの作り方について解説してきましたが、どのようにすれば起業時の「顔」となる会社のロゴマークが作れるか、このコラムから少しはヒントが掴めたのではないかと思います。
そしてsynchlogoは今後も全国の企業に向け、さらに充実したロゴ制作専門サービスとなるよう努めてまいりたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
【このコラムの執筆者】
西村渉(にしむら・わたる)|当サービスsynchlogoの運営責任者兼チーフデザイナー。ロゴデザイン事務所「nishimuraLOGO.design」主宰。ストックロゴ型ロゴデザインサービス「ロゴマーケット」参画。
ロゴデザインのキャリアはクラウドソーシングと某無料提案型ロゴデザインサービスでの活動からスタート。その後様々な企業・個人からのロゴ作成業務を請け負う傍ら、自身でもロゴ制作サービス「synchlogo(シンクロゴ)」を立ち上げ、年間数十件のロゴ作成を依頼されている。ロゴデザイン業を専門とした事業を始めて10期目となり、同業界に幅広く精通している。
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